公認心理師の植原亮太さんのカウンセリングルームには、さまざまな心の悩みを抱えた人が相談に訪れる。今回は、自身が発達障害であることにしたい男性のケースを紹介する――。
※事例は、プライバシーに配慮し一部加工・修正しています。
自身を「発達障害じゃないと納得できない」と語る男性
「人前で喋れないし、みんなと同じように振る舞えないし、だから発達障害だと思うんです。そうじゃないと、納得できないです」
そう話すのは、森田一雄さん(49歳・仮名)です。
彼は筆者が営むカウンセリングルームに、知人からの紹介でやってきたのでした。
森田さんは、自身の困りごとを話し続けました。
「言われたこともすぐに忘れてしまうし、上司から『あれ、どうなってるの?』と言われて『やべっ』て思って取り掛かる。だけど、それも思うようにこなせなくて『もう、やらなくていいから』って。――何でこんなこともできないんだ、まともに仕事もできないんじゃ、発達障害に違いないと思って。
診断が欲しくて近くのクリニックに行ったら『注意欠如多動症(以下、ADHD)ですね、間違いないです、薬出しときますねー』って、言われました。言われるままに飲んでいるのですが、そんなに効いている気はしません。それを会社の同僚に相談したら『面白い記事が出てるよ』と言われて見てみると『その発達障害、本当に発達障害?』という記事で。で、調べたら、ここにたどり着きました」
ADHDの診断に感じた疑問点
彼はここに至るまでの経緯を、時系列で淀みなく説明してくれました。
私は医師ではないので直接的な診断は下しませんが、こころの専門家としてその診断や見立てが本当に正しいのか、発達障害に見えてしまう背景にこころの問題が隠れていないのかを、必ず慎重にチェックします。質問への返答は的確か、話がズレていかないか、などです。
実はADHD(を含む発達障害)の方は、個人差はあるようですが物事を時系列に説明する能力にも何らかの課題があると考えられています。この指摘は精神医学や発達心理学などの心理系の分野からではなく、ロンドン大学での語学研究(Isra Khan Afridi 2024)の成果として大学紀要にまとめられた予備的研究ですが、新たな知見を与えてくれると思っています。
