とはいえ、私も大変苦しい立場に立たされました。タレントとしてプロダクションに残りましたが、この期に及んでも太田と結婚したことは後ろめたくて報告できませんでした。言わなければいけないのはわかっているのですが、太田が後ろ足で砂をかけるように事務所を出ていった後に、「実は結婚しました~」なんて、とても報告できるような心境ではなかったのです。

「あなた、誰かと結婚した?」

 しかしある日、事務所から電話がありました。

「副社が呼んでいる。今すぐ来られるか?」

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 これはバレた! と思ってすぐに駆け付けました。事務所では社長と副社がデスクに並んでいて、私はお二人に近付いていきました。すると副社が椅子から立ち上がって、こう切り出したのです。

「間違っていたらごめんなさいね。あなた、誰かと結婚した?」

「ご報告をせずにすみませんでした。実は9月に爆笑問題の太田光と結婚しました」

 一瞬にして、場がしんと静まり返りました。重苦しい空気のなか社長が切り出してくれました。

「うん、まぁ良かったじゃないか。結婚はおめでたいですよ!」 

「そう。それは、おめでとう!」

 副社もそう言って、棚の中からサッとご祝儀袋を取り出し、渡してくださいました。「ありがとうございます」と受け取りましたが、気まずいこと、この上ない。

©平松市聖/文藝春秋

 これは後から聞いたのですが、その頃、社長と副社はテレビ各局へ爆笑問題の“謝罪行脚”に奔走していたということでした。考えてみれば、S氏もそのプロダクションの人間でしたから、タレントだけでなく、社員への監督責任ということにもなっていたのでしょう。そんな折に“問題夫婦”の結婚をお祝いしてくれたのですから、社長と副社にはいくら感謝しても足りないくらいなんです。

社長問題! 私のお笑い繁盛記

太田 光代

文藝春秋

2025年10月8日 発売

次の記事に続く 「みっちゃん、俺、もうダメだ!」田中がトイレに駆け込んで…太田光代が明かす、銀座のバーで起きた爆笑問題と立川談志の“修羅場”

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。