太田よ、ついでに自分たちのマネージャー兼社長だって言ってくれよとは思いましたが、まぁそこはいい。私にとってのハイライトはここからです。
飲み慣れないウイスキーを飲んで顔を真っ赤にしている太田に対して、談志師匠ははっきりとこう言ったのです。
「お前さんはしょうがない。この道を行くしかない。才能があるからな」
太田はこういう場ではほとんど喋らない人ですが、神妙な顔をして黙ったまま聞いていました。
「才能は天が勝手に与えているものだから、それで身を滅ぼすこともあるもんだ」
そして、私の横でハンカチを口に当ててうずくまる田中を指さして、こう続けたんです。
「そこの小さいの……えーっと、田中か。こいつは“日本の安定”だ。いいか、絶対に切るなよ」
きっと師匠は庶民的キャラである田中が、太田の相方として絶対に必要不可欠な存在だと見抜いていたんだと思います。そして、ネタづくりで突出した才能を持つほうが相方に見切りをつけてしまうケースも知っていたのでしょう。爆笑問題に対して、最上のエールを送ってくれたのです。
あの夜の私たちは言いようのない高揚感に包まれていました。田中は水を飲んでは吐くの繰り返し、太田も完全に酔っ払っていましたが、自分たちが認められた嬉しさで胸がいっぱいになっていたのです。とにかく3人全員が上の空でした。
「お前さん、上まで送ってくれ」
私は師匠についていくように地下1階にあった美弥の階段を上ります。そして車の傍まで付いていくと、
「これからも出てくれよ、俺のところで。次からはお前さんに電話すればいいんだろう?」
「ありがとうございます。本当に今日はすみません!」
「いいよ。飲めねぇんだから」
そう言って、師匠は去っていきました。爆笑問題があの談志さんと初めて同じ舞台に立った、長い1日がようやく終わったのです。それから、3人で乗ったタクシーも頻繁に止まっては田中が吐く、太田も酔っているというとんでもなくカオスな空間になり、結局、空いていたカラオケ店に入って横にさせて休ませた記憶があります。その時も田中は幸せそうに「えへへ、俺って日本の安定なんだって~」と繰り返していました。

