これからも出てくれ、という師匠の言葉は酒の席での社交辞令かなとも思ったのですが、その後、事務所には本当に頻繁に電話が来るようになりました。

「談志だけど、社長いる?」

 第一声はお決まりで、仕事の連絡をくださるときもあれば、「離婚だけはするなよ」とかなんとか言って私には理解不能な話を続けたり、ふざけた師匠の大好物のドリアンをタイタンに送り付けられることもありました。あのときは事務所中にドリアンのニオイが充満して、談志さんのイタズラには本当に参りました。

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 談志師匠のマスコミへの発言で、私の身内がちょっとした騒動に巻き込まれたことも今ではいい思い出です。とある記者会見で、師匠が爆笑問題を贔屓にしている理由を聞かれて、こう答えてしまったのです。

「そりゃあ、太田光は俺の隠し子だからな」

 それが面白おかしく取り上げられ、本気にした真面目な記者の方から、「太田さんが立川談志の隠し子って本当なんですか」といった問い合わせを受けたりもしました。そんなのは師匠がよく言うような冗談ですし、私たちだって笑って否定しましたが、一般の方でも躍った見出しだけを見て勘違いする人が続出してしまったのです。

太田光代さん ©文藝春秋

 メディアでの騒ぎはすぐに落ち着いたのですが、もう一人真に受けた人がいました。太田の父、つまり私の義父です。私は念のため、騒動のお詫びの電話を入れることにしました。すると、お義母さんが電話に出て、言うんです。

「私はいいんだけどねぇ、お父さんがさ……」

 女の勘で「これはまずいことになった」とすぐにわかりました。

「談志となんかあったのか」

 おそらく、お義父さんが本気にして怒っているんだ! その日、たまたま仕事がなかった太田を連れて、急いで彼の実家に行くことにしました。太田と両親、そして私の四人での“緊急家族会議”です。私と太田が着いたとき、お義父さんはすでに怒り心頭でした。お義母さんに対してこんな調子なんです。

「お前、談志となんかあったのか」

「何言ってんの。そんなことあるわけないでしょ」

「本当に何もないのか!」

「あんな有名人に会ったこともないわよ!」