母は実の娘を不払いの可能性がある“要警戒”人物扱いして、自ら保険料の回収に乗り出してきたのです。街に人もまばらな夜に突然、我が家のインターホンが鳴りました。扉を開けると、久しぶりに見る母が一人で立っています。
「どうしたの? 急に来て」
そんなことはお構いなしに、母は堂々と家に入ってきて言いました。
「あなた、保険の支払いがまだなんだけど」
普通の親子が交わすような「最近の生活はどうか」といった話題は一切ありません。ビジネストークでも、だいたい社交辞令の一つぐらいは言うだろうに、母と娘の関係だからこそ一気に本題に入ってきます。そうだ母はこういう人なんだった……。こうなると一歩も譲らない人であることは私が一番よくわかっています。2万円を必死になって家から探さないと、母は絶対にここから帰らないということだけはわかりました。
私は覚悟を決めました。
「あれは親じゃないな」
まずは私の財布に入っているお金をすべて出します。手持ちの現金だけでは足りず、貯金箱をひっくり返します。それでも、やっぱりお金が足りない。次に、家の中に転がっていた小銭を100円でも5円でもいいのでかき集めます。太田は手伝うこともできず、その光景をただ茫然と見ているだけでした。
時間にして1時間ほどでしょうか、集めたお金を居間に座っている母の前に持って行きました。
「ごめん、手持ちはこれしかないの」
2万円の満額に届かないことは私自身、わかっていました。
母は私が出した小銭を手早く仕分けして、1円単位まできっちり数え上げていきます。やはり2万円には届きませんでした。
「1000円足りないけど、今月はまあいいわ。来月にしっかり払いなさいよ」
そして、去り際に太田に向かって、「あなたがしっかりしないからこうなるの。ちゃんとしなさいよ」。
そう言い放ったのです。太田には私の生い立ちを話していましたから、母がどんな人かはだいたい知っています。それまでは私が母のエピソードを語ると、太田は決まって「みっちゃん、実のお母さんをそんなにひどく言っちゃダメだよ」と優しく諭すような口調で返していましたが、いよいよわかったのでしょう。
太田もその日、母が帰るなり「あれは親じゃないな」と思わず漏らしていました。
あのときはさすがの私もこたえましたが、太田はどこかのラジオに出演したときに「すごいんだよ、みっちゃんのお母さんは~」と面白おかしくネタにしていて、まあ談志師匠のようにきちんとオチをつけてネタにしていたので結果オーライです。
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