中国の映画情報サイト「猫眼電影」には、「この映画が見たい」というランキングがある。なんと『731』には455.5万人ものユーザーが「見たい」と回答(2025年10月3日時点)。この数字は歴代1位だという。その勢いに中国当局が押されたのか、『731』は2度の延期から一転、公開が決まった。しかも9月18日、中国では「国恥記念日」と呼ばれる柳条湖事件が起きた日に封切りされた。

455.5万人以上が「見たい」映画としてチェック(「猫眼電影」より)

現地の日本人が抱いた不安

 公開に恐怖を感じていたのが在中邦人だ。 上海在住のHさん(40代、男性)はこう嘆いた。

「9月3日の軍事パレード後、中国ネットの書き込みが抗日戦争一色になった時点で不安に感じていました。ここに映画『731』が来たらどうなるのだろう。昨年の深圳や蘇州のような日本人を狙った暴力事件が多発するのではないか。不安でした」

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「抗日と反日は違う」「悪いのは日本軍国主義であり、一般の日本民衆に罪はない」というのが中国共産党の公式見解だが、すべての中国人民がその建て前に同意するかというと、話は別だ。昨年9月18日には広東省深圳市で10歳の日本人児童が刺殺される事件が起きた。

9月20日、深圳日本人学校に供えられた花束 ©時事通信社

 そうした大きな事件ではなくとも、罵声を浴びせられたり、嫌がらせをされたりはよくある話だ。抗日戦争勝利が盛り上がり「歴史を忘れるな」とのスローガンが連呼されれば、日本人ヘイトに走る人が出る。『731』が公開されれば日本人ヘイトはどれほど高まるのか……と不安を覚えるのも無理はない。

崩壊する口コミ評価、垂直落下する興行収入

 9月18日、映画が公開されると、前評判通りの大ヒットとなった。興行収入は初日だけで3億4572万元(約70億円)を記録。初週興行収入は12億2800万元(約245億円)を記録した。だが、そこから売上は雪崩的に急落している。

映画『731』の興行収入が公開直後にガタ落ち(「猫眼電影」より)

 前出のHさんは公開2週目に映画を見たが、週末にもかかわらず観客は1人だけ。文字通りの貸し切り状態だったという。

「ネットでは映画の出来をめぐって論争が起きていますが、そもそも私の周囲ではまったく話題になっていません。心配していたのがアホらしいぐらいです」