中国で9月18日に公開された、旧日本軍の関東軍防疫給水部(731部隊)を題材にした映画『731』が、大きな話題となっている。一体、どのような作品で、現地ではどう見られているのか。中国研究家でジャーナリストの高口康太氏が寄稿した。

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公開してすぐ300億円突破→「ゴミ映画」と酷評殺到

 中国の抗日戦争映画『731』がいろいろとヤバい。9月18日の現地公開から記録的なペースで興行収入15億元(約300億円)を突破した一方で、映画を見た観客から「爛片」(ゴミ映画)との酷評が殺到。観客動員がたちまち激減しているのだ。

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 この映画『731』とはなんなのか? 中国は何を狙っていたのか? なぜこれほどの大ヒットを飛ばし、その後ものすごい勢いで失速したのか? 

中国で制作・公開された映画『731』のポスター ©CFoto/時事通信フォト

2度の公開延期に、中国国民の期待が高まっていた

 映画『731』は日本の旧関東軍防疫給水部(731部隊)をテーマとした作品だ。同部隊は現在の中国東北部に拠点を構え、細菌兵器の開発を行っていた。マルタと呼ばれる捕虜に対して、細菌感染させたり凍傷させるといった残虐な実験を行ったことは広く知られている。

 今年(2025年)は終戦80周年の節目の年である。中国では「抗日戦争勝利80周年」を記念して、9月3日には大規模な軍事パレードが開催されたほか、日中戦争を題材としたドラマや映画が多数公開されている。

731部隊の施設跡地 ©時事通信社

「あまりの残虐シーンに…」「日本への配慮から公開延期か」

 だが、『731』はもともと2024年公開を目指しており、“80周年”を目指した作品ではなかった。中国では当局の許可がなければ映画の公開はできない。それもあって2025年7月31日公開へ後ろ倒しになったが、結局こちらも直前になって延期が発表された。公開予定日数日前の時点で前売り券が発売されていなかったことから、当局から公開許可が下りていないのにもかかわらず、先行して宣伝していたようだ。

 すると、中国国内では「『731』を見たい」というネット世論が爆発的に広がった。防毒マスクをつけた兵士が全面に描かれた映画予告ポスターはインパクトがある。加えて、延期の繰り返しが話題となり、「あまりの残虐シーンに中国当局が公開をためらった」「日本への配慮から公開延期されたのでは」などとの噂が飛び交い、さらに期待感を高めた。