加齢による変化も「役の幅が広がるので楽しみ」
近年は、その役に合わせた変幻自在ぶりがたびたび話題となる池脇。2024年放送のドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ・フジテレビ系)では、第9話にゲスト出演し、意識障害で昏睡状態の娘を抱える母親を演じた。
あえて素肌の質感を残した顔には娘の目覚めを信じて待ち続ける母親の苦悩が刻まれており、多くの人の胸を打った。池脇の出演は、主役の杉咲花と若葉竜也たっての希望だったそう。
わずかなシーンだったが、ごく一般の母親になりきる池脇の名演が医療ドラマとしてとことんリアリティにこだわる作品に多大な貢献を果たしており、このキャスティングは大成功だったと言えるだろう。
2025年放送の『秘密~THE TOP SECRET~』(カンテレ・フジテレビ系)第2話では、介護のストレスから「自分が美女である」という妄想に取り憑かれた末に同僚2人を殺害するコンビニ店員を怪演。
同作は清水玲子による漫画を基にしたドラマで、原作ファンの間ではビジュアルの再現度の高さが絶賛されていた。
美女妄想に取り憑かれているという設定は、そのキャラクターが不美人であることを前提としている。そんなある種の汚れ役をベテランでありながら受け入れる器の大きさには尊敬の念を禁じ得ないが、そもそも池脇は美しくあることにこだわっていない。
2021年の『SPUR』(集英社)のインタビューでも、池脇は見た目の若さや美しさを気にしたことがなく、「むしろ年を重ねると、そのぶん役の幅が広がるので楽しみなんです」と語っている。
実際、素朴な中年女性を演じさせたら池脇の右に出る者はいないように思う。表面的ではない内面から滲み出る美と、劇中では描かれない役の背景と生活感までもが画面から匂い立ってくるような味のある演技で、観る者の記憶に残り続ける池脇。「ポスト樹木希林」との呼び声も高く、その唯一無二の存在感がこれからの日本の映像界を支えていくことは間違いないだろう。



