だが、総裁選は自民党の内輪の選挙であることを思い出したい。「民意」とは自民党員のことだ。『党員票が議員動かす…高市新総裁、派閥・旧派閥の思惑で有利に』と読売新聞は報じた(10月5日)。

茂木氏の陣営幹部は「2回目は高市氏に入れた」

『派閥復権、高市氏に風 麻生氏の「号令」決め手』(毎日新聞10月5日)という記事もあった。最大のポイントは党内で唯一の派閥を率いる麻生氏の存在だった。麻生氏は周囲に1回目は小林鷹之氏と茂木敏充氏に投票するよう求めたという。これは両氏に1回目の投票では協力することで、決選投票では高市氏に入れるよう求める戦術で、

《実際、茂木氏の陣営幹部はJNNの取材に、「麻生さんとは貸し借りがあったので、2回目は高市氏に入れた」と明らかにしています。》(JNNニュース)

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 ああ、解党的出直しどころか古い自民党のやり直しだ。やはり内輪の選挙なので世間とのギャップがある。

 そういえば高市氏は新総裁に選ばれた直後のスピーチで「ワークライフバランスという言葉を捨てる」と述べた。注目はおじさんたちの笑い声がたくさんあったことだ。あの場ではあの言い方がウケるのだ。しかし自民党の外ではどう思われるのか、次期首相の言葉が世の中にどう響くかまでは瞬時に考えられなかったのだろう。内輪ゆえのズレが可視化された。冗談風の言葉にこそ重要なことが見える時もある。

 それでいうと高市氏はタカ派とか右派と言われるが、それも含めてウケそうなことを言う芸風でここまできたと考えることもできないか? 安倍氏への忠誠も含めて。それものし上がり方の1つだろうが見逃せない点もある。“ウケ”にこだわりすぎて真偽不明なことをよく言ってしまうのが高市氏だからだ。

 たとえば安倍氏の国葬に関して「反対のSNS発信の8割が隣の大陸からだったという分析が出ている」と述べたという件があった。三重県議が高市氏の講演内容を記したメモをもとに当時のツイッターに投稿したという。そのあと撤回し、高市氏も否定したが、騒動は記憶に新しい。