今回の総裁選では外国人観光客の一部が「奈良の鹿を足で蹴り上げ、殴って怖がらせる人がいる」と主張して外国人政策の厳格化を訴えた。しかし奈良県庁で奈良公園を所管する部署の担当者は「毎日2回、公園を巡回をしているが、観光客による殴る蹴るといった暴力行為は日常的に確認されておらず、通報もない」とマスコミの取材に答えている。
事実と異なることを率先して煽るだけでもマズいが…
さらに高市氏は刑事事件を起こした外国人に関して「警察で通訳の手配が間に合わず、不起訴にせざるを得ないとよく聞く」と発言した。法務・検察幹部は「最後まで通訳が確保できなかったという話は聞いたことがない」とこれまた各マスコミに対し語っている。
高市氏の事務所は「実際に不起訴になる事例が頻発しており問題だということを言いたかったのではなく、そういう話が『人口に膾炙(かいしゃ)する』くらい、国民の間に不安が広がっている、ということを言いたかったもの」などと文書で朝日新聞に回答した。
これには驚いた。事実は二の次で、共感を得られればそれで良いという手法に思えるからだ。危険すぎないか。事実と異なることを率先して煽るだけでもマズいが、差別や偏見を増長させてしまう次期首相にはそれこそ「不安」しかない。犬笛ならぬ鹿笛である。
次期首相がこうした手法をとる人物ならメディアには胆力が求められる。高市氏の「奈良の鹿を蹴り上げる外国人」演説について、日本テレビは奈良公園でガイドをする女性の「攻撃的な観光客の方は基本的に見かけない」という証言を報じた。
しかし、Xでは別の報道番組に登場した女性と顔が似ていると言われた。「証言者は劇団員」というヤラセ説が拡散されたのだ。だが女性の所属する観光会社に問い合わせたところ、ガイドの女性は劇団員ではなく、別番組に登場した女性とは全くの別人だという(東京新聞)。日本テレビも「中傷、迷惑行為は慎んで」と声明を出した。今後心配になるのは高市案件に触れるとデマが流されて炎上するかもしれないと考え、報道する側の腰が引けてしまうことだ。面倒くさいからやらないとなったら言ったもの勝ちになる。
第二次安倍政権はまず経済政策を掲げたことで滑り出しがよかったが、政権が安定するや強権的な姿勢も露わにした。高市氏にも同様の注意が必要ではないか。高市政権の見どころは、メディア側がひるまずに事実を問うことができるか?でもある。
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