たとえば「シマウマは1日20時間ぐらい草を食べ続けないと生存に必要な栄養を得られないが、ライオンは3日に1度ぐらい獲物を捕らえその肉を食べたら十分」とされる。それほど肉は、効率のよい餌なのだ。

「OSO18」が家畜ばかりを狙ったワケ

しかしクマにとって、これまで肉を得るのは難しかった。野生動物は俊敏に逃げるし、また広く薄く生息しているので見つけることも至難だった。

ところが、近年は獣害対策に駆除したシカなどの死骸が山に埋められるようになった。駆除数は、全国でシカ年間70万頭以上、イノシシ50万頭以上にもなる。その死骸のほとんどが利用されることなく現地で処分される。クマが、それを掘り返して食べるのは容易だろう。これが肉の味を覚えるきっかけになったという指摘は多い。

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これで肉の味を覚えると、次に襲うのは家畜となる。

北海道東部で放牧中のウシ65頭を相次いで襲撃したヒグマ「OSO18」は、餌のほとんどを肉に頼っていたというが、実は同地域で2002~22年に駆除された他のヒグマを調べたところ、OSOと同様の傾向が確認された。

クマは、学習能力が非常に高い。農作物や家畜、もしくは生ゴミを食べて美味しいと感じたら、親から子へ、さらに他のクマへも肉食の魅力は伝播しているのだ。

人里に出るのが最もコスパがいい

生息数が増えたクマは、森に餌が足りなくなると、新たな餌を探して行動範囲を広げた。そこで農作物や生ゴミ、そして駆除されたシカなどの屍肉を見つけた。一度食べると、どれも美味しく、栄養価も高い。しかも農作物は大量に栽培している。同じく家畜も多数飼育されている。つまりクマにとって“収穫”は容易で、1日中動き回って餌を探す手間が省けるわけである。コスパを重視すれば、人里に出るのがもっとも適している。

そう考えると、クマの人里出没が相次ぐ現状を説明できるのではないか。

そして人間もあまり危険でないことに気づいたのではないか。それどころか積極的に餌を提供してくれる観光客もいる。もはや人里は、美味しい餌が多くて安全な新天地だと学習してしまったのかもしれない。