社長がタバコ箱を投げてくるめちゃくちゃな面接
ちょうど同じころ、31歳のときに会社の東京所長のポジションが空いた。「8年間、東京で働いてきたオレが次の所長だろう」と思っていたが、別の年上の男が所長に就くことが決まった。誠は損得より感情で動くタイプだ。会社に絶望し、すぐに辞めた。
よく営業先で顔を合わせた関西大手商社の営業マンが、再就職を誘ってくれた。大手企業であったが、この営業マンは社長からの信頼を得ていたのか、トントン拍子に面接まで進んだ。
副社長の面接はOKだった。最後は社長面接だ。誠は緊張しながら社長室に入った。しかし、社長のようすがおかしい。仕事内容の話をしながら、ずっとタバコの箱をいじっている。(あの箱が飛んでくるのでは?)と誠は思っていた。話の途中で突然タバコが飛んできた。誠は受け取った。
「これが取れるなんてたいしたもんや。二十数人いる営業の中でお前はもう2番目や。タバコが来ると思ってたか?」
「最初から思ってました」
「おお、そうか。今の営業のホープである大木は、受け取ってから投げ返してきたわ」
その大木こそが誘ってくれた営業マンだ。誠の入社が決まった。年収は400万円から750万円に上がった。仕事かパチンコかわからないような生活をしていた誠が本腰を入れて仕事をし始めた。しかしながら、その3年半の猛烈な仕事ぶりの代償に、家庭は崩壊への道をたどる。
家庭を顧みず、毎晩夜中まで残業
「いい会社に転職できて、いい給料ももらえるので、僕も仕事を頑張った。今までは半分パチンコしてたような仕事ぶりだったけど、マジメに働きました」
会社は8時半始業なので、7時半から8時には会社に着いていた。そこから夜中の2時、3時まで働くのが当たり前だった。
メインの営業は東京だけで数億の売上になるが、新参者ゆえにサブに回された誠は山梨、群馬、埼玉、茨城と田舎を回る。
1つの売上はがんばっても数千万。それをいくつも組み合わせるのだ。上司に試されていると感じた誠は、3年間死ぬ気で仕事をした。会社での評価は最高だったが、妻が「愛人でも作っているのでは……」と疑り始めた。
このころは子どもの誕生日にも残業で帰れなかった……。