新宿で4年以上「立ちんぼ」を続けている未華子(仮名、32歳)。清潔な身なりで西新宿のマンションに暮らし、月50~100万円を稼ぐが、2021年に2度、売春防止法違反で逮捕された。

 彼女にとって“立ちんぼ”は生活手段であり、罪悪感よりも「仕事としての覚悟」が勝っている。背景にある、「母親への強い憎しみ」とは……。ノンフィクションライターの高木瑞穂氏の文庫『ルポ 新宿歌舞伎町 路上売春』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全3回の2回目/続きを読む)

写真はイメージ ©getty

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「立ちんぼ」になる前の彼女の人生

 未華子は1991年、静岡県内のベッドタウンで生まれ、その街で育った。自動車メーカーの営業マンをしていた父親は、のちに借金がかさみ自己破産するほどのギャンブル狂だった。「家庭にわずかしかカネを入れない」と、よく母親は愚痴っていた。

 かたや化粧品会社の事務員をしていた共働き妻の母親は教育熱心な人で、「お兄ちゃんが優秀なのに、アンタときたら」と未華子に辛くあたっていた。運動会など学校の行事には参加してくれるが、「頑張ったね」などの労いの言葉は一切ない。未華子は問題児ではないものの、デキのよかった年子の兄と学校の成績を比べてプレッシャーをかけられる毎日だったのである。ちなみに両親は喧嘩が絶えなかった。関係は完全に冷え切っていたと理解していい。

 未華子がグレたのは、中1の夏だった。兄と比較されることも、母親から聞かされる父親の愚痴も、喧嘩ばかりする両親の不仲も、本人曰く「すべてが嫌」になった。

 そして着の身着のまま家出をして親友・明日香の実家に棲みつくようになる。早くに離婚して水商売で生計をたてていた明日香の母親は、家を空けることが多く、生活力のない未華子がかくまってもらうには格好の場所だった。

 むろん、中学生を雇ってくれるバイト先などない。遊ぶカネはどうしよう。食べるものはどうしよう。悩んだ末、未華子はテレクラで男を捕まえて友達と一緒に売春するようになった。

写真はイメージ ©getty

 雑誌の背表紙にあった広告を見せて「ここに電話すれば」とテレクラ売春を教えてくれた地元の先輩とは、以前から付き合いがあり、家出先に選んだ明日香の姉だった。ツールは、中学校入学のお祝いに父親が契約してくれたケータイ電話である。未華子も友達も、それまでセックス経験はなし。

 13歳の処女は10万円で売れた。ふたりして別々の男を捕まえ、カラダを売って日銭を稼ぐ日々だった。