「値段は1から1万5千円。もちろん本番です。雨が降っていなければほぼ毎日。夕方に出勤して、遅ければ深夜3時ごろまでいたりしますね」

 記者が出会った、新宿で4年以上「立ちんぼ」を続ける未華子(仮名・取材当時32歳)。見た目も清潔で西新宿のマンションで一人暮らし。金銭的にも余裕があり、現在は「立ちんぼ一本」で生計を立てているという。

 しかし、彼女には2度の逮捕歴が。警察の注目を集めるにもかかわらず、彼女が覚悟をもって街娼を続けている理由とは――。ノンフィクションライターの高木瑞穂氏の文庫『ルポ 新宿歌舞伎町 路上売春』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全3回の1回目/続きを読む)

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写真はイメージ ©getty

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売春を続けて「2度逮捕された」女性

 未華子が街娼になったのは、2018年夏のことだ。きっかけはありがちで、出会いカフェで知り合った売春仲間から「公園が稼げるよ」と聞いたからである。

 そのころ出会いカフェでの売春を繰り返していた未華子は、客待ちするだけではなく、自ら声をかければ出会いカフェのようにマジックミラー越しに見定められ、選ばれてトークルームに移動して値段の交渉をして、という段階を公園なら踏まなくていいと考えた。

 その回転率のよさから「何の迷いもなく公園に立つようになった」という。多い月で100万円、ならすと月に50万円ほどの実入りがあるというが、歴4年の街娼生活のなかで2021年の3月と5月に2回、未華子は逮捕されていた。

──1回目はどういう感じで捕まったの?

「夕方ごろ、ひとりで立ってたら男性に声をかけられた。普通の見た目の人です。で、イチゴー(1万5千円)でって値段の交渉してホテルに行ったんですよ。そしたらホテルの前で『はい、警察です』、みたいな」

──もちろん制服じゃなくて私服だよね。捜査員ってわからなかったの?

「全然わかんなくて、ホテルの入り口入る直前で『警察です』って言われて。すぐにパトカーじゃなくワゴン車が来て、乗せられて目黒署に連れてかれた感じですね」

──2回目は?

「別のホテルでしたけど、ほとんど同じ感じです。今度は八王子署でした。実は男性に話しかけられる前からひとり、気になる女性が近くにいたんですよね。交渉を終えて男性とホテルへ向かったら、あとからその女性もついてきた。気づいてはいたんですけど、普通のギャルっぽい感じの女性だったから、同業さんだと思い、まあ、気にすることないか、と。そしたら男性は私服警官で、その女性も私服の婦人警官だったっていうオチです」

 未華子の2回の逮捕は、いずれも大久保公園での路上売春による売春防止法違反だったが、「目黒署と八王子署の捜査員だった」と語っている。現場が新宿区内の大久保公園であるならば、普通は新宿署や四谷署の捜査員となるはずなのに、なぜ遠方から駆けつけての逮捕となったのか。誰もが思うであろうこの疑問については知人の捜査関係者が「街娼の摘発は、いずれも警視庁本部の生活安全部保安課が取り仕切るから」だと解説してくれた。

「生活安全部保安課が売春防止法関連の事件の内偵捜査をするときは、所轄の生活安全課保安係と組みます。目黒、八王子と一見、現場の新宿と関係なく思えますが、例えば元締めなどの立件に必須の首魁クラスの事件関係者のヤサ(自宅)がそれぞれにあった、と。その所轄の捜査員が駆り出される意味があるのです。

 ちなみに売春関係では、元締めやケツ持ちの暴力団が必ずいます。暴力団が絡む場合は、本部も生活安全部ではなく、組織犯罪対策部が主管し、本部の暴力団対策課(旧・ソタイ4課)が仕切り、関係者のヤサの所轄の暴力団対策係が動くという流れです」

 つまりみかじめ料を徴収している、あるいは過去に徴収していた者のヤサが目黒と八王子にあったというだけで、何らおかしいことではないようだ。

──罪状や取り調べの様子は?