両親は離婚、愛してくれない母親
数ヶ月後、未華子は両親が離婚することを家出したまま知ることになった。いったん実家に戻り、家族会議の末、未華子の親権は母親に。教育熱心だった母。振り返ればそれは、愛情の裏返しだったのかもしれない。未華子はこのとき、まだどこか母親からの愛情を欲していたようで、母親側につくことを自ら決めたのである。
やっぱり母が好きだ。それをわかってほしい。テレクラ売春をしていることを気づいてほしくてアルバローザやココルルなどのギャル系ブランド服で着飾り、見た目を派手にした。リストカットもした。なのに、一向に向き合ってくれない。だから、いまさらどう伝えれば──。
未華子が出した答えは、また家出をすることだった。が、母親が未華子を咎めることはついになかったのである。そして未華子は母へ憎しみを向け始めるのだ。
それを決定づける日が、中1の冬にやってくる。
未華子は原付バイクを盗んだ。ほどなく警察にバレてしまい、警察署に連行される。流れで静岡市内の一時保護所に移動になり、そこで母親が来るまで2週間ほど過ごした。
身元を引き受けるはずの母親がとった行動は、児童自立支援施設(旧・教護院)に預けることだった。母親は、いざというときにも助けてくれない。未華子は捨てられたと悟ったのである。
類は友を呼ぶとはよく言ったもので、自暴自棄になるなかひとりの悪友ができた。
同じく窃盗で先に入所していた美咲である。同い年だったこともあり、入所初日から不満をぶつけ合うようになった。ケータイ電話が使えない。自由になるカネもない。
口をつくのは現状を打破するためにはどうすれば、といった諦めに似た愚痴ばかりである。
その美咲が、入所3日目の夕食後、鬼気迫る様子で唐突に言った。
「私の実家は施設から近い。帰ればお金があるよ」