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本音では生き続けたいのではないか
──琴音と「一緒に死のう」って話してるんだよね。ビルの屋上から「手を繋いで飛び降りよう」って。飛び降りるっていうのは、やっぱり人目に触れたいから?
「それもあるし、落ちるだけだからいちばん楽そう。誰かがポンと突き飛ばしてくれれば、それで終わりじゃないですか」
──自分が死ぬことを、なぜ誰かに知らせたいの? 誰に知らせたいの?
「え、あいつ死んだんだ、みたいに思われたいだけ」
──でも、自分ではその確認はできないわけだよね。
「まあ、そうなんですけどね」
誰かがポンと突き飛ばしてくれれば──喜怒哀楽を示すことなく淡々と語るなか、その言葉に強い引っ掛かりを覚えた。見えない猿ぐつわが、未華子のなかにある。言い換えれば、自分から飛び降りる勇気はない──つまり本音では生き続けたいと、強く警告しているように僕には思えてならない。
それを裏付ける証言を得るべく、僕は琴音と同じように長期の密着取材を願い出ると、未華子は笑顔でそれに応じる。