「古来、勇武をもって誇る薩(薩摩)、隅(大隅)、日(日向)、三州健児の威気を示すはまさにこの時にあり。勇戦奮闘、南京城を頭に、日章旗を翻すべし。チェスト行け!」
それから8年後の沖縄戦。牛島は沖縄に配備された第32軍の司令官として、沖縄住民に多大な犠牲を出す作戦を取ったと批判される。映画は、「軍人軍属を問わず沖縄の言葉を話せばスパイとみなし処分する」と命じたことが住民の殺害を招いたと指摘する。
もう一人、沖縄と日中戦争をつなぐ人物が紹介される。金城信隆。沖縄出身で、日中戦争さなかの1940年に旧制中学を卒業し、上海にあった「東亜同文書院」に進学する。日本と中国が連携し、ともに発展しようと理想を掲げた名門学校で、中国語を徹底的に学んだという。彼も日記を残している。
《どうか、勉強する。もりもり自分の世界を開拓していく金城信隆になってくれ》
名もなき兵士たちの言葉を歴史に刻む
しかし日中戦争は泥沼化し、迎えた1941年12月8日。
《対米英宣戦布告。来たるべきものは遂に来た》(12月8日)
《僕は沖縄が空襲されはせんかと案じている》(12月9日)
故郷の家族を案じながらも、やがて学徒出陣へ。戦地へ赴くことを悩みながらも、陸軍の情報部門に配属され優秀な情報を上げたという。しかし大戦末期の1945年5月、中国での戦闘で戦死する。
《犬死にはしたくない。生きられるだけ生きて、俺の、(東亜同文)書院に来た日本人としての、従って俺個人としての仕事をやれるだけやって、諦観して死にたい》
日記の朗読が心に響く。戦地で綴られた文字も静かな迫力がある。映画の締めくくりに紹介される金城の悪夢は、戦争に翻弄された運命を象徴するようだ。
《夢だ。夢だ。俺はほんとによくうなされる》
名もなき兵士たちの陣中日記を「社会の記憶」として歴史に刻む作品だ。戦後80年の今、戦争の実相を伝える貴重な「財産」として噛みしめたい。
『豹変と沈黙 日記でたどる沖縄戦への道』
監督:原義和/出演:橘内良平、宮城さつき、西尾瞬三/2025年/日本/104分/©Yoshikazu Hara2025/上映予定:Denkikan(熊本・公開中)、第七藝術劇場(大阪・10/17まで)、シアターセブン(大阪・10/18~)、シネマ・ジャック&ベティ(神奈川・11/15~)、深谷シネマ(埼玉・11/16~)、ナゴヤキネマ・ノイ(愛知・11/29~)、桜坂劇場(沖縄・12/6~)など。
