どこにでもいたごく普通の日本人が、戦場で兵士として残虐な所業を繰り返した。そして戦後、彼らは戦場の出来事について多くを語らなかった。兵士たちの陣中日記をひもとき、人間の脆さと戦場の異常さを浮かび上がらせた話題のドキュメンタリーが公開中だ。(日記の引用は一部の表記を読みやすく変更しました)

陣中日記の朗読シーン ©Yoshikazu Hara2025

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兵士たちの陣中日記の率直な記述

《手を合わせて拝むあわれな敗残兵をば銃剣で突き、棒でなぐり、石で頭を割って叩き殺し、その後は、ああ、戦友の仇を討ったと胸のすくような思い。人殺しをした後はかえって飯がうまいのだから、まあ大した悪者になったというものだ》《こんなことは、もし内地へ帰る時があっても、話もできぬようなことである》

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 国内で穏やかに暮らしていた人々が兵士となり、過酷な戦闘にさらされ“豹変”していく。彼らの多くは戦後、口を閉ざし“沈黙”した。しかし、いつ死ぬともわからぬ戦地では、現実を率直に記していた。

 本作は、兵士たちの陣中日記を通し戦場のリアルを描く。軸となるのは3人の兵士。いずれも1937年、日中戦争の開始とともに軍隊に召集され中国に送り込まれた。彼らが書き記した言葉が代わるがわる紹介される。

《天津の思い出。クイーン王(ワン)さん。これは内緒だけれど、他の者は笑うかもしれないけれど、可愛い僕のタイタイ(妻)は本当に可愛くてならない。もし俺に自由の日が来たら必ずや迎えに来ようと思う》

戦闘の合間に書かれた陣中日記 ©Yoshikazu Hara2025

 中国で女性と親密になった記載がある一方、戦場では、

《敵前にて小銃、MG(機関銃)弾、榴弾の乱射を受け、皆々恐ろしさに体を伏せ、恐怖にふる(震)う》

《見る見るうちに戦友は倒れていく。あぁ、なんたる悲惨なることぞ》

 こうした体験が敵兵士への憎しみを掻き立てていく。