私たちが入手したスマホの動画。そこに映る女性は、不動産の所有者だと紹介され、ひと言、控えめなあいさつをする。「すみません、よろしくお願いします」。
これはドラマ化でも話題になった、あの“地面師たち”だ。8年前、東京・五反田の土地の所有者になりすまし、土地の売却をもちかける姿。ある不動産関係者が撮影していた。のちに、被害に遭うのは大手ハウスメーカー「積水ハウス」だった。55億5900万円がだまし取られる過去最大規模の地面師詐欺事件である。
警察は2年の捜査で、地面師グループ17人を逮捕。10人が起訴され、事件の捜査は終結した。こうした地面師詐欺事件を題材に、動画配信大手で2024年にドラマ化され、少数精鋭のグループが巧妙に、大企業をだます姿が話題になった。「もうええでしょう」は流行語にも選ばれた。
しかし今回、改めて取材を進めると、まだ地面師の一端しかとらえられていないことが分かってきた。我々にとってその深層はまだ未解明だ。初めてカメラの前で語られた地面師関係者や警察幹部の証言。そして、詐欺の内実を示す捜査情報や資料の数々。
NHK総合テレビで毎週土曜夜10時から放送中の新シリーズ『未解決事件』File.03では、「地面師詐欺事件」に迫る。(全2回の1回目/後編に続く)
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地面師グループは“因縁”の相手
実は地面師グループとNHKの取材班の間には少なからず因縁がある。大手ハウスメーカーの被害が明らかになったのは2017年8月。当時、詐欺事件などを捜査する警視庁捜査2課を担当していた記者は、関係者への取材を開始し、その翌月、「ニュースウオッチ9」で地面師特集の放送にこぎつけた。その核となるのが地面師を知る“事情通”への匿名インタビューだった。
「ひとつの仕事が終わったら解散する。分業化されているから、ひとつの水脈が捕まっても、元々の水脈にはつながらない。蜘蛛の子を散らすように消えていく」
事件とは無関係を装って語っていたこの男こそ、主犯格の1人とされた土井淑雄・受刑者だった。その後、大手ハウスメーカーから55億5000万円をだまし取ったとして逮捕されることになる。何食わぬ顔でインタビューに対応していたのが印象的で、事件に関与しているとは考えてもいなかった。我々自身が手玉にとられていたのか? なぜ匿名とはいえ、堂々とテレビの前に出てきたのか? 疑念はいまも晴れていない。




