大手ハウスメーカー「積水ハウス」が被害に遭い、55億5900万円がだまし取られた過去最大規模の地面師詐欺事件。警察は2年の捜査で、地面師グループ17人を逮捕、10人が起訴され、事件の捜査は終結した。こうした地面師詐欺事件を題材に2024年にはドラマ化もされ、少数精鋭のグループが巧妙に、大企業をだます姿が話題になった。「もうええでしょう」は流行語にも選ばれた。
今回、改めて取材を進めると、まだ地面師の一端しかとらえられていないことが分かってきた。我々にとってその深層はまだ未解明だ。初めてカメラの前で語られた地面師関係者や警察幹部の証言。そして、詐欺の内実を示す捜査情報や資料の数々。
NHK総合テレビで毎週土曜夜10時から放送中の新シリーズ『未解決事件』File.03では、「地面師詐欺事件」に迫る。(全2回の2回目/前編を読む)
◆ ◆ ◆
花街の名残をとどめる、最後の“未開発の土地”
事件の舞台となる土地は、不動産業界でも有名だった。五反田駅から徒歩数分。目黒川沿いに、600坪がまとまっている一等地だからだ。市場価格は、当時100億円とも言われていた。各社が狙っていたのは、五反田で開発余地の残された数少ない場所だったからだと、近隣に長く住む男性が語った。
「このへんで買収できる大きな土地があるのは、あそこだけ。最後の1軒だった。所有者の元女将はずっと土地を売らないと言っていた。バブルの頃だって、かたくなに譲らなかった。土地を売らずに最後まで旅館をやるというから、まわりがビルになる中で、あそこだけ残った」
五反田で手つかずの一等地にあった老舗旅館。営業を始めたのは大正時代だった。戦後の一定時期まで、周辺はいわゆる“花街”。料亭や旅館が建ち並んでいたという。当時の様子を記録する貴重な写真を見つけた。五反田駅近くにある、創業96年の写真館にあった。写真は当時あった別の旅館で、お座敷で撮影されたもの。髪を結い着物姿の女性たちが男性とうつる。写真館の2代目、伊與田正志さん(92)は昔の様子を懐かしむ。




