いろんな人間を介すことで、関与をぼやかしていく。偽造そのものを担うグループと主犯格たちとは直接つながらない。地面師詐欺では、全体の絵を描く人間はいても、犯罪の細部まで把握している者がいない方が、「知らなかった」と言い張れるというのだ。
「逮捕されても、軽い刑で終わったやつも何人かいたでしょ」
五反田の事件では、偽造パスポートなどの偽造書類が使用されたが、直接偽造した人物は、1人も逮捕されていない。
偽造書類から“本物”を生み出す
偽造されたパスポートを手に入れた地面師たちは驚くべき行動に出る。
なりすまし役が向かわされたのは、五反田にある品川区役所の出張所。手には偽造パスポートと、土地の所有者である元女将の名前が彫られた印鑑。印鑑は街のはんこ屋で購入したものだ。目的は、印鑑登録の変更手続き。出張所の窓口にいる職員を偽造パスポートでだまし、勝手に、元女将本人の印鑑登録を、新たなものに替えてしまった。これで地面師たちは、本物の印鑑登録証明書を使って、不動産取り引きを進めることができる。今回の取材で接触できた地面師グループの関係者はこう明かす。
「みんな勘違いするが、偽造は、偽物を作るだけじゃない。本物を作るのも偽造なんですよ。なりすましを役所に行かせて、印鑑登録を替えてしまえば、世間上は本物。大手を振って行政から出た本物を使って取り引きすれば、問題を減らせる」
「ウソ」を本物で塗り固めていく、地面師の巧妙な手口が浮かび上がってきた。
“おいしい案件” 多数の中間業者を利用する
「土地」「なりすまし」「偽造」。準備を整えた地面師たちは、偽りの売却情報を流し始める。接触したのは、不動産仲介業や、いわゆる不動産ブローカーなどの「中間業者」。買い手の企業を見つけ、売り主につなぐことで、そのマージンで利益を得る。「あの旅館がついに売りに出るから、買い手を探してほしい」。詐欺であることを伏せて情報を流すと、本物の儲け話として信じた中間業者が、仲間に話を持ち掛け、次々と連鎖していく。警察が事情を聞いた150人以上のリストから、およそ50の業者に偽の情報が伝わっていたことが分かった。
今回、売り込みを受けた業者の1人が取材に応じた。当時、都内で不動産仲介業を営んでいた男性。提示された手数料の金額に、前のめりになったという。
「五反田駅からも近いし、100億弱でもおかしくない物件。その時は55億という話で、めちゃくちゃ安くて買い手がつきそうだった。手数料として3億~4億は抜いていいという条件で、とにかくおいしい案件だった」




