実際、この男性は、複数の買い主候補を見つけ、交渉を進めようとした。自身がやったことが、一歩間違えれば、地面師を利することにつながりかねなかったと、振り返る。
「なんで我々みたいな部外者の仲介業者に話を通すのだろうと。地面師たちが直接やれば情報は漏れないし、情報統制もつけられると普通は思うけど、真実性を持たせるために、まったく関係ない我々を使うのかな。計算尽くだとしたら、たいしたもんですよ」
地面師たちが自ら動かずとも、中間業者たちが買い手探しに奔走する。彼らは知らぬ間に、詐欺計画を推し進める歯車の一つとなってしまう。別の中間業者が買い手として見つけたのが、実際に被害を受ける積水ハウスだった。
「あれだけの金を漫画みたいに取れることはない」
多数の人たちを巻き込みながら進む地面師詐欺。その中で、事件だと認識し関与したとして逮捕されたのは17人。そのうちの1人である男性に接触することができた。男性は事件に使われた口座の一部を準備したとして逮捕されたが、不起訴となった。
振り込まれた金を現金化し、他の人物に渡した。その痕跡が残る通帳を手もとに持っていた。それを見せてもらうと、一度に16億円が振り込まれている。
「僕が現金化したのは、全部で32億5000万。あれだけの金を漫画みたいに取れるっていうのはないね」
この男性は、当時はこの金がだまし取られたものとは認識していなかったとした。受け取った報酬として1億6000万円。事件性について疑問を持たなかったのか、問うた。
「だいたい、ばかじゃないから分かるよ。分かるけれども明確に絡んでないし知らないっていえばそれまでの話だから。別にね、頼まれて、たかだかの手数料をもらって、換金することの何が悪いのと。それで助かっただけの話なのよ。もう金は残っていない。あぶく銭というか、ボーナスみたいなもので、悪銭は身につかないじゃないですか」
初めて捜査幹部がインタビューに答えた
役割が枝分かれし、事件への関与の度合いをあいまいにする。そのような地面師グループ特有の形態は、警察の捜査の壁にもなっていた。今回、事件の再発防止を目的に、当時、捜査を指揮した現役の幹部が取材に応じた。当時、警視庁捜査2課の管理官だった坂井明徳・警視正。事件について、カメラの前で語るのは初めてだという。東京オリンピックの開催決定などを背景に不動産価格が高騰する中で、地面師たちが暗躍し、その捜査に追われていたと明かした。




