狙われた五反田の土地 地面師たちに情報が渡った“偶然”
捜査関係者によれば、地面師が事件を起こすのに不可欠な3つの要素があるという。「土地」「なりすまし」「偽造」だ。今回の事件で、その全体像を描いたとされるのは、内田マイク・受刑者。主犯格の1人で過去にも地面師詐欺に関わっていたとされる。その内田が目を付けたのが東京・五反田にある廃業した老舗旅館の土地だった。内田は、どのようにして、この土地の情報を手に入れたのか? その入手先として上記の捜査資料や裁判記録などに、ある名前があった。私たちは、今回、この人物に接触することができた。
待ち合わせ場所となっていた都内のファミリーレストランに現れたのは、初老の男性。長年、不動産ブローカーをしているという。「これまで事件に関わったことはない」とはっきり告げたが、内田とは関係を持っていた。
「ある人物から紹介されて、マイクと出会った。事件を繰り返してきたが更生したいというマイクに、不動産の仕事を教えてあげてくれないかと頼まれた。私で役に立つならと、マイクとは何度か一緒に、不動産の仕事をしたことがある。もちろん、まっとうな仕事だったよ」
報酬を分け合ったこともあり、その仕事ぶりに“マイクが犯罪から足を洗うものだ”と信じていたという。当時、男性が都内に構えていた事務所への出入りも許し、机などに置かれていた不動産の物件資料を内田がのぞき見ることもあった。その物件情報の1つが、あの五反田の土地だった。
「実は、うちのグループは、五反田の旅館のある土地の所有者である元女将と話をすることができていて、所有する土地に含まれていた駐車場でマンションを開発する計画を進めようとしていた。大手のデベロッパーも含め他社も狙っていたが、元女将とまともに話ができていたのは、うちだけだったはず。元女将も前向きに考え始めてくれた頃で、私たちは、その駐車場を契約して、頻繁に通った。その駐車場の契約書や、元女将の周辺の情報をまとめた資料が置かれていたと思う」
その後、元女将は体調を崩し、入院。計画は頓挫した。この男性は、五反田の土地を舞台にした地面師詐欺事件が起きたと知って、まず内田を疑った。
「『あの事件、やっただろ』って、すぐにマイクに聞いた。そしたら『天地神明に誓ってやってない』って言ってたよ。だけど案の定、逮捕されて、私も捜査に協力した。警察が押収した物件の情報の中に、私たちしか持っているはずのない駐車場の契約書などがあって、マイクは私たちから情報を取っていったんだと、そのとき初めて気づいた。犯罪から足を洗うんじゃなかったのかって、思ったよ」
内田の目の前に偶然転がりこんだ、旅館の土地情報。それが事件の始まりだった。





