カメラの前で交尾がスタート

――ゴリラの世界にもイジメがあるんですね。

 でも、たまたま他のメスがNo.2のオスのところに行っていて、No.1のオスが一人になった時がありました。No.1が一人きりになると、ムガンガが「こっち」と手を挙げてアピール。そして、交尾をしたんです。

ムガンガが手を挙げてオスにアピール © Keiko MORI & Rwanda Development Board (joint copyright holders) 
2人の交尾が始まった © Keiko MORI & Rwanda Development Board (joint copyright holders) 

 私はムガンガがいじめられているのをずっと心配していました。交尾の様子をカメラで撮っていたんですが、きっとそのことを、ムガンガもわかっていたんでしょうね。

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 その後日本に帰国して、事情があって数か月ぶりに再びルワンダに戻ったことがありました。久しぶりにムガンガのいる群れを訪ねると、ムガンガが赤ん坊を抱えて嬉しそうに私に見せに来てくれました。

赤ん坊を見せに来たムガンガ © Keiko MORI & Rwanda Development Board (joint copyright holders) 

――ムガンガは森さんのことを覚えていたんですか?

 そうだと思います。ゴリラはすごく記憶力がいいんです。ゴリラ研究の第一人者である山極壽一先生が、26年ぶりに会ったゴリラが先生を覚えていたという感動的なシーンを撮影したことがありました。ムガンガも私を覚えていてくれて、「生まれたよ」って挨拶に来てくれたんだと思います。

マウンテンゴリラは絶命危惧種

――長年、森さんはゴリラと関わってこられました。今後やっていきたいことはありますか?

 「ゴリラのはなうた」というNPOを立ち上げて、ゴリラの保護活動を支援してくださる賛助会員の方を募集しています。実は、マウンテンゴリラは地球上にわずか1000頭しかいない絶滅危惧種です。なので、ゴリラの生息域を確保したいと考えています。

ゴリラの保護活動に取り組んでいる 撮影=鈴木七絵/文藝春秋

 ゴリラが住んでいる国立公園は50年前にくらべると半分に減っています。これを回復するには、今住んでいる人に移住してもらう必要があります。でも、その人たちからすれば「なぜ私たちが動かなければならないの?」となりますよね。

 そこで重要なのが教育です。国立公園近くには4校で約1万人の子どもがいます。今から彼らにゴリラの暮らしぶりや保護の大切さを教えて、理解を積み重ねれば、10年後に結婚・定住を決める時に「移ってもいい」と思ってもらえる可能性が高まります。今はそこを一生懸命やろうと思っています。

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