東アフリカ・ルワンダを拠点に、野生のゴリラを撮影してきた写真家の森啓子さん。撮影のために1年の半分以上を現地で過ごし、撮影歴は13年以上に及ぶといいます。

 なぜ、そこまでゴリラに魅了されるのか。森さんが“ゴリラ写真家”になるまでの経緯を聞きました。(全3回の1回目/続きを読む

ゴリラ写真家の森啓子さん 撮影=鈴木七絵/文藝春秋

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ゴリラ研究の第一人者から「君は命が惜しくないのか?」

――もともとはテレビの制作会社に勤めていたそうですね。

森啓子さん(以下、森) 朝のワイドショーや料理番組を担当した後、ドキュメンタリー番組に異動しました。けれど、最初の頃はなかなか企画が通らなかったんです。そこで「みんなが行かない所や、嫌がることをやってみよう」と考えました。

 学生時代は山岳部だったので、筋力や体力はあるし、冬の登山や、岩場も滝も大丈夫。だから、野生動物がいる場所を撮りに行こうと。

 たまたまTBSに企画書を出す機会があって、5本のうち4本はすらすら書けたのですが、最後の1本で迷ってしまって。「まぁ、ゴリラにしておこうか」という軽い気持ちで出したら、それが採用されたんです。

はじめは特段ゴリラ好きというわけではなかった 撮影=鈴木七絵/文藝春秋

――はじめはゴリラ愛が強いわけではなかったのですね。

 やっと企画が通ったので、やるしかないという感じでした。それでまず、ゴリラ研究の第一人者である山極壽一先生(前京都大学総長)に連絡をして、取材に協力してもらえないかと打診したんです。そしたら山極先生から「絶対に無理!」と言われてしまって。

 当時、ゴリラが生息している地域は内戦状態で、山極先生の調査基地も壊されたばかりでした。戦争で森が荒れ果て、食べるものがない兵士たちがゾウを大量に殺して、食糧にしていたんです。

ジャングルに生息するゾウ © Keiko MORI & Rwanda Development Board (joint copyright holders) 

――やっと企画が通ったのに……。

 諦めるわけにはいかず、知り合いのコーディネーターに頼んで、ゴリラが撮影できそうな場所を探してもらいました。そして、コンゴ民主共和国のジョンバという場所を教えてもらったんです。

 山極先生に「ジョンバに行きます」と伝えると、電話越しに「ジョンバか……」と一瞬息を飲む気配がありました。そして「なら僕のフィールドの方がまだ安全だ」と。後日、改めて山極先生のもとに打ち合わせに伺うことになりました。

霊長類学者の山極寿一氏 撮影=杉山秀樹/文藝春秋

 山極先生の第一声は「森さん、君は命が惜しくないのか」。すぐに「惜しくないです」と答えました。同席していた私のアシスタントは黙ったままでしたが、帰りの電車で、「ごめんなさい森さん、私は命が惜しいです」と涙を流していましたね。

 その後、山極先生の信頼しているコーディネーターに依頼して、コンゴのカフジ・ビエガ国立公園に行く段取りがつきました。さらに山極先生も現地へ同行してくださることになったのです。