「ヤブを抜けた途端、目の前にドーンと…」

――突破口が見えたのはいつでしたか?

 あれは、国立公園に入ってから1週間ほど経った日のことでした。薮を抜けて顔を上げた瞬間、ゴリラが目の前にドーンと座っていたんです。

ゴリラが突然目の前に… © Keiko MORI & Rwanda Development Board (joint copyright holders) 

 成獣のオスゴリラで、シルバーバックと言って、背中が白銀色でした。体格はガッシリしていて、頭の大きさは私の4倍くらい。私たちとの距離は約3.5メートル。飛びかかられたら首をへし折られるほどの至近距離です。

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 どうすればいいかわからず驚いていると、山極先生が耳元で「森さんを見てるぞ。見つめ返せ」と言うんです。「目で語れ、なにか言え」と。

「私はあなたの敵じゃないの。あなたを保護する番組を作るためにここに来ているのよ」と目に力を込めて言いました。

 必死にゴリラと目を合わせながら、30秒くらい経ちました。するとゴリラは「グフゥ~ン」と唸り、ふっと横を向いて目の前の草をむしゃむしゃと食べ始めたのです。

 その背後から子どもゴリラたちが顔を覗かせ、メスは木に登って私をじっと見るようになりました。山極先生が「よし! 撮影できるぞ!」と声を上げました。

森さんを見つめるゴリラ © Keiko MORI & Rwanda Development Board (joint copyright holders) 

 言葉ではなく、ゴリラと目と目で気持ちを通わせることができた。私がゴリラにすっかり魅了された瞬間でした。

ゴリラが兵隊に食べられてしまった

――ゴリラに対して怖さは感じませんでしたか?

 不思議と怖いとは思わなかったですね。ゴリラも私たちが毎日追いかけてくるから、「しょうがないな。ここらでちょっと待ってやるか」という感じだったと思います。

 このまま毎年ゴリラの取材を続けたいと思いましたが、カフジで内戦が続いてしまい、人づけされた95頭のゴリラがすべて兵隊に殺され食べられてしまったため断念しました。

 その後は他の野生動物の取材をして過ごし、再びゴリラに会えたのは10年後。その時はルワンダのマウンテンゴリラでした。これまで会えなかった分、ゴリラに深くのめり込んでしまい、現地に家を借りることになりました。

ジャングルでの撮影風景 © Galbany Jordi

 それからはルワンダに暮らし、クリスマスとお正月、そして夏休みだけ日本に帰るという生活をするようになりました。

次の記事に続く 血まみれのケンカでも「絶対にトドメは刺さない」ジャングルに生きる写真家が目撃した“野生ゴリラの任侠ぶり”「彼らを唯一怒らせてしまうのは…」

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