ゴリラに襲われる危険性もあった

――ご家族からの反応はいかがでしたか?

 3週間の予定で現地に行くことが決まりましたが、夫も当時中学3年生の娘もとくに驚く感じではなかったですね。

 ただ、現地では何が起こるかわかりません。野生のゴリラは穏やかな性格だと言われていますが、彼らのルールを知らずに近づいて、急に飛びかかられる可能性もあります。

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 娘には「もしお母さんがゴリラに襲われて死んでも、幸せだったんだと思ってね」と話しました。ゴリラだけではなく、トラやホッキョクグマなど、リスクが高い動物の取材のときは、常々言っていたことです。

地面を叩いて求愛するゴリラ © Keiko MORI & Rwanda Development Board (joint copyright holders) 

――ゴリラに襲われる危険性もあったんですね。

 山極先生から教わったのは、野生のゴリラを取材するには「人づけ」が欠かせないということでした。野生のゴリラは人間を怖がるので、出会うと瞬時に逃げられてしまいます。毎日会いに行って、人間に慣れさせる必要があるんです。

 具体的には、最初は30m以上離れて観察し、日を追うごとに少しずつ距離を縮めていき、ゴリラが約5mの距離でも逃げないようになれば「人づけ」の完了です。ゴリラの種類にもよりますが、このプロセスには5年ほどかかると言われていて、こうした手順を省いて一気に近づこうとすると「ガァー!」と襲われて、噛みつかれてしまうこともあるそうです。

怒り状態のゴリラ © Keiko MORI & Rwanda Development Board (joint copyright holders) 

 また、一度「人づけ」しても、しばらく人間に会わないと「人づけ」は外れてしまいます。カフジ・ビエガ国立公園にいるゴリラは、戦争の影響で1年半も「人づけ」が途切れていたので、再び「人づけ」を行う必要があるだろうと言われていました。

「ゴリラが諦めるまで徹底的にやる」

――実際に現地を訪れてみて、いかがでしたか。

 ゲリラ(正規軍ではない少数の部隊)や兵隊が森の中にたくさんいて、とても危険な状況でした。普段ならゾウが薮を踏み分けて道を作ってくれるのですが、戦争で大量のゾウが殺されてしまい、道は薮でボウボウ。私と山極先生はほふく前進で薮をかき分けながらゴリラに近づいていきました。

ゴリラの棲む山 © Keiko MORI & Rwanda Development Board (joint copyright holders) 

 ゴリラは目も耳も良く、人間の存在に気づくと一目散に逃げてしまいます。慌ててシャッターを切っても写るのはほとんどお尻ばかり。山極先生からは「とにかく追いかける」「ゴリラが逃げるのを諦めるまで徹底的にやる」と言われました。