カナダではモルモン教徒家族やパンクロッカーの家で生活
――カナダではどんな生活を?
田中 最初はモルモン教徒の家族にホームステイさせてもらったんですが、それは興味深い経験でした。家族は「神が万物を創造した」と考えていて、こっちは「恐竜の進化が……」とか言ってる人間なので(笑)。でも、世界にはこういう考え方があるんだなと、自分の中で視野が広がった気がします。
カナダは恐竜研究の本場なので、化石の発掘現場が都市から2時間くらいのところにあって。夏は発掘に出かけたり、大きな博物館で恐竜を調べたりして、研究するにはすごくいい環境でした。
――研究以外では、どういう生活をされていたんですか?
田中 一人暮らしを始めてからは、カナダ人のオーナー家族が住む家の1階を間借りさせてもらっていました。そのオーナーさんがパンクロッカーで、最初は「大丈夫か?」と思いましたね(笑)。
でも、すぐに仲良くなって一緒に食事をしたり、遊んだり。小さな赤ちゃんもいて、家族のように暮らしていました。たまにとんでもない爆音でバンドの練習をするので、もう全然研究なんかできないんですけど(笑)、僕はそのバンドのファンだったので、一番に新曲が聴けるという楽しさもありました。
――オーナー家族とは、いろんな思い出がありそうですね。
田中 緑の多い、別荘地みたいな雰囲気の住宅街でした。庭で焚火を囲みながら、お父さんがギターを持ってきて、話しているうちに「音楽にできそうだね」と即興で音楽を作ったりして。貧乏学生だった私に、しょっちゅうビールを無料で提供してくれていました。今でも日本でライブをされるときには観に行きますし、ずっと交流が続いています。
合計で8年半もカナダで研究を続け「まだやるんか!」って
――ちなみに、当時の収入源は?
田中 日本の奨学金制度を利用していたので、最低限のお金はいただいていました。あとは大学院で、授業補佐(ティーチングアシスタント)もしていましたね。
――どのくらいカナダに行っていたんですか?
田中 合計で8年半くらいです。日本だと修士課程が2年間、博士課程が3年間なので、それよりは長めですね。でも、長いのは決して悪いことではないと思っていて、北米では自分が「終わった」と思えるタイミングで修了できるんです。
日本だと基本的に5年間と決まっているので、それが逆にプレッシャーになったりするんじゃないかなと思います。北米でも上限はありますけど、自分がいいと思うところまで研究して、「次のステップに行けるな」と思ったところで終えればいい。それはすごくいいことだと思いますね。
でも、最後の方は毎年「もう1年、もう1年」という話になって、「一体いつ修了できるんだ」という不安はありました。指導教官が研究に厳しい先生だったので、「もう少しやったほうがいいんじゃないの?」と言われ続けて、「まだやるんか!」って(笑)。
