選択肢はほとんどないのに高額な義眼

――「片目失明者」への支援は、現状足りていないんですね。

Rib 一方で、義眼を製作している会社や工房では、長年、生活の中で違和感のない仕上がりを第一に、見えている目“晴眼”を忠実に再現するよう製作を行っています。

 それによって、多くのかたが安心して社会生活を送れるようになったことは、とても意義があると思います。ただ、デザイン性や個性を取り入れた義眼を選択することが、現状ではほとんどできません。それに「被せ義眼」の多くは保険の適用対象外で、自費で製作すると十数万円ほどかかります。

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©︎文藝春秋 撮影・細田忠

――かなり高額ですが、どれくらいの期間使えるものなんでしょうか。

Rib 耐用年数はおよそ2年とされているので、2年ごとにそれだけの費用を負担することになります。それだけ自己負担が求められるのであれば、せめて自分の好きなデザインを選べるようにしたい。それが私の発信活動における原点です。

 そして、私1人が義眼を提供する側として活動を広げても、今の社会の仕組みがそのままであれば、結局は私の世代で終わってしまう。それならば私自身は、制度や社会の構造そのものを変えていくことに力を注ぎたいんです。

 私の発信に共感したり関心を持ってくれたりする人たちとつながって、医療や福祉、デザインといったさまざまな立場の者同士で協力し合える環境を作る……長い目で見ればそれこそが大きな変化に結びつくと考えています。

――Ribさんの作品のようにデザインされた義眼が選べるような社会が理想なんですね。

Rib 何よりまず私が一番に願っているのは、社会保障制度が変わってくれること。それで片目失明者への支援や義眼に関する制度が整えば、ようやく義眼を選ぶ自由や安心が生まれると思うんです。そのうえで、大手の義眼製作所がより多様なニーズに応えられるよう変化してくれたらと考えています。

©︎文藝春秋 撮影・細田忠

必要でも「美容目的」とされてしまう現状

――「被せ義眼」という存在も初めて知りました。

Rib 「被せ義眼」は、美容目的として扱われるケースと公的補助の対象になるケースで、細分化されています。たとえば、眼球が残っていて、もう片方の目の視力に異常がないようだと、障がい者という扱いにならず、2年おきに十数万円もかかる義眼が全て自己負担になります。一方で、たとえばその後、もう片方の目の視力が落ちて0.6以下になると「補装具費支給要件」に当てはまるので支給があるんです。

――うーん。「視力0.6以下」とか、基準が細かいんですね。

Rib そうなんです。あとは労災によるものであれば支給されるとか。そういうさまざまな条件で細分化されて、取りこぼされているのが、残された目の視力が一定以上あり、失明した眼球自体が残っている片目失明者です。

 眼球を全摘出している場合は「義眼が眼窩の保持に必要」ということになる。けれど実際は、萎縮した眼球が残っている場合でも、眼窩の保持という意味では絶対に義眼が必要です。それでも「美容目的」という扱いにされてしまうのが現状なんです。