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なぜ交通機関がストップしても「大丈夫」なのか

 豪雪で交通機関がストップするという事態が都会で起こったならば、おそらく物が買えないことだけでも相当なパニックになるだろう。では、なぜ大野では「大丈夫」なのか。その理由は、訪問する先々で明らかになっていった。

番台のある銭湯「東湯(あずまゆ)」

 例えば、訪問した農家では自然の法則やエネルギーをうまく活かして食料の保存をしている。農家の大藤あきゑさんは「白菜と、大根やらにんじんはねえ、乾くとだめなんですわ、こうやってビニールの袋入れて置いとくと3月までいける。雪消えるまでね」と、根菜の保存方法を見せてくれた。さらに、大野の特産品である里芋は寒さに弱く、一風変わった方法で保存される。土の中ならば一年中温度が一定になるという条件などを活かして、ぬかをかけて床下にねかせておくのだ。

特別に入れてもらった床下の貯蔵庫。地下熱で、自然にほんのりとあたたかい。

「大野では、冬になると自分の分だけこうやって蓄えとくんです。里芋は穴ん中入ってるんです。『ぬか』かけて。地熱で、凍らんようにね」

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 冬の生活は、とっくの前から入念に準備されてきた。雪で道が途絶えて周囲との交通が制限されてもある程度までは「大丈夫」――。

 不思議だった。懐かしくもあり近未来的でもあるような、それでいて、常に変わりゆく環境を相手に手を動かして住まいを作り続けている様子。ここでは、季節や天候がちゃんと「存在している」ではないか。

家族5人ほどで住めそうな一軒家がまさかの「タダ」?

 大野には、私が六本木時代に封印していたものがあった。「生活」と「肌感覚」である。彼らがそれほど辛そうでないというのも魅力的だった。体力のない私が乗り込んだら、やはりすぐさま踵を返すだろうか。しかし、それにしても豊かに見えるんだよな。

 移住の意向を伝えた矢先、長谷川さんや市役所の荒矢大輔さんは早速、空き家の情報をいくつかくださった。家族5人ほどで住めそうな一軒家がまさかの「タダ」だという。え、タダ? さらに、どこからどう見ても豪邸にしか見えない、日本庭園風の庭と広々とした蔵付きの一軒家が年間で10万円だという。東京だとワンルームでもひと月10万くらいするのに……。私の「当たり前」が壊れていく……。実際に住む家を決めるには、もうすこし検討が必要だろう。調査の拠点となる空き家探しも含めて、鋭意、引っ越し準備中の現在である。

 

 大野に特徴的な水との付き合い方は私たちにどんな発見を与えるだろうか。大野の動物やモノ、自然と付き合うひとびとはどんな「肌感覚」をもっていて、どんなふうにふるまうのだろうか。

 寒い地域に住んだこともなければ、都会以外の場所でひとり暮らしをしたこともない。料理、というか家事全般が苦手な上に、ペーパードライバー。しかし、そうした不安をかき消すほどの期待があった。私は、福井県大野市の「新しい時代の予感」をじっくり探求してみることとする。

写真=北川真紀