「芸人なら女を捨てろ」と言われてもおしゃれが好き

 それまでツッコミありきのコントしかしてこなかった渡辺は、相方を探しながら若手主体の新ネタライブに出てはビヨンセのモノマネを披露する。先輩主体のライブに新人にもかかわらず出演させてもらったのもこのころだ。それは、テレビ番組のプロデューサーやディレクターも来る公開オーディション的なライブで、客席には大先輩の今田耕司もおり、先述の『さんまのまんま』出演へとつながったのだった。

 芸人の仕事を始めると、コンプレックスだったぽっちゃり体型を周囲がネタにしていじってくれて自分がおいしくなることも多く、この体型も悪くないと気持ちを切り替えることができた。ビヨンセのモノマネも、ぽっちゃりした彼女が本気でなりきるというギャップが笑いを誘った。

ビヨンセのネタでブレイク〔2012年撮影〕 ©文藝春秋

 それにともないおしゃれへの興味も復活する。当時のお笑い界には「芸人なら女を捨てないとダメだ」という考えがまだ根強く、女性芸人は服装など少しでも女性らしく振る舞うと先輩から注意された。とくに渡辺はデビュー当初から、髪にエクステをつけて巻き、ヒールを履いたり、メイクもばっちり決めていたのでよく怒られたという。それでも彼女は構わず好きな格好をし続けるうち、しだいにそれが個性だと認められるようになった。のちにはファッションブランドのプロデュースも始めている。

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プロデュースを手掛けるファッションブランド「PUNYUS」(公式通販サイトより)

コントへの思いがかなった『ピカルの定理』

 テレビの仕事とあわせて劇場にも出続ける。「東京ワン・ダース」というコントユニットをチョコレートプラネットや同期のジャングルポケットなどとともに組み、月1回ライブを行っていた。『いいとも!』のレギュラーが2年で終わったあとには、大阪の吉本新喜劇のメンバーを主体とした公開バラエティ番組『全快はつらつコメディ お笑いドクター24時!!』(朝日放送)に2010年4月から1年間レギュラー出演し、大阪の舞台や新喜劇のお笑いを学ぶ。

 その間、コント番組をやりたいとずっと思っていた。その念願は2010年に『ピカルの定理』(フジテレビ系)が深夜枠でスタートするのと同時にレギュラーに起用されたことでかなえられる。レギュラー出演陣にはこのほか、ピース、平成ノブシコブシ、ハライチ、モンスターエンジンと実力派コンビが集まり(のちに千鳥も加入)、渡辺はそのなかで最年少として鍛えられた。

2010~2013年にフジテレビ系で放送された『ピカルの定理』(FODより)

《それまで「ビヨンセ」だけ踊っている一発屋みたいなイメージだったところから、コントのイメージを付けてもらっ》ただけに、『ピカルの定理』は自分のなかですごく大きかったという(『SWITCH』2023年1月号)。同番組はその後、プライムタイム、ゴールデンタイムと放送時間帯がどんどん昇格していき、彼女たちの人気と評価も高まっていった。