事前の会議で渡辺がこの企画を提案すると、スタッフ全員から否定されたという。だが彼女は、バラエティ番組『金曜ロンドンハーツ』(テレビ朝日系)でやったマシュマロキャッチの動画が台湾で拡散されていたり、海外在住の友人から「ヨーロッパでも直美の動画が流行しているよ」と聞いたりしていたので自信があった。もくろみどおり爆笑をとり、初日終了後にスタッフたちから謝られたとか(『日経エンタテインメント!』2017年1月号)。
レディー・ガガのパロディMVが世界中で人気に
このころにはInstagramのフォロワー数が日本一になっていた。インスタが話題になったことで「渡辺直美って誰?」と興味を持った人が、テレビを見て芸人だと知るというパターンも増えたようだ。YouTubeにも早い時期から表現の場として注目していたが、会社に相談してもまったく動いてくれず、そうこうしているあいだにYouTuberが脚光を浴び、他人の真似はしたくない渡辺は急に興味を失ってしまったらしい。
結局、彼女がYouTubeチャンネルを開設したのは2020年3月で、当時まだやる人の少なかった生配信にこだわった。当初は、芸人仲間と生で即席コントを2時間くらいぶっ続けでやってみようと考えていたが、コロナ禍でそれができなくなり、食事をしながらの一人トークでのスタートとなる。その年7月には本人公認のレディー・ガガのパロディMVを、ゆりやんレトリィバァとの共演で配信したところ世界中で人気を集め、再生数は半年足らずで1800万回を超えた。
2021年4月、米国に移住
これと前後してニューヨークに拠点を移す計画も立てていた。きっかけは2018年に大悟、吉村崇、ピースの又吉直樹と食事をした際、「おまえ、もう海外行かないの?」と訊かれたことだった。「俺らは行けないけど、おまえは行く切符をもらってる。だったら行ったほうがええんちゃうか」と言われ、ハッとなった彼女は即座に「行きます!」と宣言する。
翌2019年は移住すべきか検証する期間に充て、レギュラー番組が隔週であったので1週間おきにニューヨークに赴き、現地のエンターテインメントに自分が入り込む隙間があるか確認してから決めることにした。半年ぐらいで「行ける」と確信し、会社にも伝える。その後、コロナ禍のため色々と予定変更もあったが、2021年4月、ついに移住した。
本来は移住前に予定されていた主演ミュージカル『ヘアスプレー』日本キャスト公演も延期となり、2022年に一時帰国して2年越しで実現した。このミュージカルで渡辺が演じたのは、明るくパワフルなビックサイズの17歳の少女トレイシー。劇中ではトレイシーがテレビのダンス番組出演を目指して奮闘するさまが、人種差別やルッキズムの問題も絡めながら描かれた。
