「当初は正和堂書店だけでやったのですが、店を開けたら人が並んでいて。半日で1000枚ぐらいなくなってしまいました。好評だったので2023年11月には全国323書店でブックカバーを配布したのですが、どこもオープン前に長蛇の列ができていたようで、売り上げが通常の2倍から4倍、ある書店では1日で1カ月分の売り上げに達したそうです」

書店への来店動機を生み、購買意欲も同時に高めた牛乳石鹸とのブックカバー企画。追い風となったこの取り組みは現在も続いており、2024年11月には全国591書店で配布し人気を博している。さらに、牛乳石鹸だけでなく、阪神電車、京阪バス、銀河高原ビールなど多様な企業と積極的にコラボレーションし、オリジナルのブックカバーを制作している。

「古いまま」なのに文庫本は3年で4倍増

書店として売り上げを伸ばすなら、リノベーションやカフェを併設するといった手も考えられる。だが正和堂書店はそうした刷新を選ばず、昔ながらの町の書店をほぼそのまま保っている。当初、小西さんはこの古い感じが好きではなく、売場の縮小や店舗の一部賃貸化など時代に合わせてお店を更新したいと考えていた。しかしある時から「もう、これでいいか」と思い始めたと語る。

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「3年前ぐらいから店は古くてもお客さんは来てもらえると、ブックカバーを通してわかって。それに『お家に帰ってきたみたい』『親戚の家に来たみたい』といった好意的な声が増えて、以前はあまり良い評価ではなかったGoogleマップのクチコミも、いつの間にか高評価の方が上回ったんです。それなら改築とかは考えず、もっと違う提案の仕方で店を盛り上げられるのではと気づきました」

正和堂書店は大掛かりな改装ではなく、アイデアを積み上げることで店の個性を保っている。その結果、客の評価だけでなく売り上げにもつながった。取材に訪れた際には、セレクト本・ブックカバー・コーヒーのドリップパックがセットで購入できる「おうち喫茶」コーナーなど、気軽に読書を楽しめる工夫があった。