「売り上げが下がっている分野もたくさんあるんですけど、3年前は1500冊程度だった文庫本が、今は1カ月に6000冊ぐらい売れています。全国の出版社さんが挙げてくれる書店の売り上げランキングで、名だたる書店が並ぶ中30位に入ることもあって。それにはすごく驚きました」
現在では台湾や香港などのアジア圏の客も来ることが多くなった。
読書家ではない、だからこそ今がある
最後に今後、正和堂書店をどのような場所にしたいのか小西さんに伺った。
「本に対するハードルを下げたいですね。実は私、大の読書家というわけではないんです。だからこそ書店は本を売るだけじゃなくて、読書の楽しさも発信する場所でありたいと思っています。私自身が販促の仕事をやってきて『めちゃくちゃ売れています』と言われてもなかなか人には響かないと感じていて。そういう意味ではオリジナリティーのあるブックカバーが、気兼ねなく本を買ってもらうための1つの架け橋になればいいなと」
「今後はフォトスポット的な本棚を作ろうと思っていて。他にも子どもが座る椅子をちょっと変わったものにしたら、話題になったりするのかなと考えています。そういう仕掛けを通して本の魅力をいっぱい伝えていけたらいいなって」
「こうあるべき」を変えたクリエイティビティ
一般的な書店が本の置き方や書棚全体のバランスを重視するのに対し、正和堂書店では体験などに重きを置く。また「ハードルを下げたい」という発想も、それまでの書店が抱えてきた「こうあるべき」という既成概念を崩すものである。
「やっぱり、書店にクリエイティブ業界系の方は少ないかなとは思います。『本質』の反対は『現象』なんですが、私のように広告の仕事をしていた人は現象を扱います。でも書店などの出版業界はどちらかというと本質を扱う方のほうが多いイメージがありますね」
この本質と現象の対比は、現代の読書にも当てはまる。書店に集まるのは本質的な「読書家」だけではなく、もっとカジュアルに関わりたい層も確実にいる。正和堂書店は、そのゆるやかな入り口を設計する店でもあるのだ。そういう意味でこの書店は、昔ながらのたたずまいでありながら、マインドは読書の多様性に即した令和の書店と言えるかもしれない。
フリーライター
大阪府出身のフリーライター。関西圏のインディペンデントカルチャー(インディーズバンド、ライブハウス、レコードショップ、ミニシアターなど)を中心に、現場の雰囲気やアーティストの背景、地域の文化的なつながりを文章として紡ぐ。過去にはAll About、Real Sound、Skream!、Lmaga.jp、Meets Regionalなどに寄稿。
