便利な計算式を一つ紹介しよう。「第一期にEで毎期gの率で成長するキャッシュフローを割引率rで割り引いた時の、第一期から無限の将来までの割引現在価値の合計P」は次の式で計算できる。
高校を卒業すればみな知っているはずの等比級数の和の公式から導くことができる。大学生の君には簡単だろう。
P=E/(r― g)
例えば、発行株数1億株で今期の予想純利益が100億円(一株当たり利益は100円)の企業の利益が年率1%でずっと成長するとしよう。この将来利益を年率6%の割引率で現在価値に直す時、今期から将来のすべての利益の割引現在価値の合計は2000円である。
P=100/(0・06 ― 0・01)=2000
高成長でも、低成長でも、期待リターンは同じ
割引率6%は、短期金利(無リスク金利)を1%、リスクプレミアムを5%として考えてみた。さて、簡単な問題だ。
A、B2つの企業があり、今期の予想一株利益が同じく100円だとしよう。A社は利益が2%で成長し続け、B社の利益はマイナス2%で減少し続けるとした時、それぞれ株価はいくらか?
成長企業A社の株価は2500円(P=100/{0・06―0・02}=2500)で、マイナス成長企業B社の株価は1250円(P=100/{0・06―〈-0・02〉}=1250)だ。
では、計算された株価で、A社、B社の株式に投資する時の期待リターンはいくらか?
ともに割引率が「6%」である。成長率を反映して株価が決まっている場合、割引率が同じなら、高成長で高株価な会社に投資するのと、低成長で低株価な会社に投資するのとでは、期待リターンに差はない。
そこまで無理に当てはめると少し卑屈な感じがしなくもないが、例えばA社株は経済成長している米国の株式、B社株は人口減少でマイナス成長に陥るかも知れない日本の株式だと考えてみることができる。
低成長経済の日本株も、低成長が織り込まれた十分に低い株価で評価されていたら、米国株に遜色のない投資対象になり得るということだ。どちらかに投資することが有利なのではない。
なお、「そうは言っても、過去のデータを見ると、経済成長と株価はリンクしているように見えるではないか」という印象を受ける原因は、経済成長率の「予想していなかった変化」(上下両方向に関して。いずれも予想できなかった「事後的なもの」である)が株価に与える効果が累積的に影響したからだと考えられる。実際、過去30年くらいの日本経済は成長の期待がどんどん下方修正されるひどい経済だった。



