「大企業に勤め、安定した雇用と賃金を得る」――リスクを取らないこの生き方は、今やあなたの未来を縛るだけかもしれない。ここでは経済評論家・山崎元氏の『経済評論家の父から息子への手紙』(Gakken)を一部抜粋。資本家の隙を突き、利益を巻き上げる労働者になるための極意とは?(全3回の2回目/#1を読む、#3を読む)

 会社の利益はどこから発生するのだろうか。「資本」という雑多な財産が入ったプールの周辺にいる利害関係者を見てみよう(図1)。

図1:典型的な利益の構造

 結果的に利益が出るとすれば、資本か労働かいずれかに起因するはずだが、この際「資本を利用する労働」に注目しよう。

ADVERTISEMENT

 ある典型的な労働者が、1日に会社にとって平均的には2万円の利益に相当する生産に関わっているとしよう。一方、この労働者に対して会社が払うべき賃金は1万円だとする。資本には1万円相当の利益が貯まる。

 このようにして貯まった利益の一部は、銀行からの借り入れに対する利息や返済に回されるだろうが、その残りは株式を通じて資本家のものになる。

 資本設備を増やしながら、このような条件での労働者の雇用を拡大することで、会社は規模を大きくして、利益を拡大することができる。

 なお、新製品の発明や生産方法の改善のような大きなものから、商品の売り方のような小さなものまで含めた技術進歩も企業の利益の源泉になっていて、比較的頻繁に発生しているが、この利益も資本家のものになりやすい。

リスクを取りたくない労働者が、世界の“養分”になる

 先の、2万円の生産に貢献して1万円しかもらわない労働者が、不満で不本意なのかというと、そうでもない。彼(彼女)は、たとえ1日に1万円でも、安定した雇用と安定した賃金を求めているからだ。

 安定(=リスクを取らないこと)と引き換えに、そこそこの賃金で満足する。合意の上の契約だ。彼らこそが、世界の養分であり経済の利益の源なのだ。

 世の中は、リスクを取りたくない人が、リスクを取ってもいいと思う人に利益を提供するようにできている。