トー横で話を聞いて回る中で、Aについても徐々に情報が集まってきた。

「あきこのスマホに残っていたメッセージでは『仕事がきつかった』ということしかわかりませんでしたが、しかしトー横で話を聞いて回る中で、Aについてもわかってきました。

 トー横には、若い子に薬のバイヤーなど法律スレスレの仕事をやらせる胴元のような男がいるんです。歌舞伎町内のホテルを借り切ってキッズたちを無料で宿泊させていたりしていて、逆らえない存在だと言います。Aはその男から危ない仕事を斡旋されて、人集めもしていたようです。本来なら防護服がいるようなタンク車の掃除で、リスクもあるのに月の給料は20万円。搾取されていた、と言っていいと思います」

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「良かれと思ってやったことがこんな結果に……」

 浩三さんはあきこさんがAからDV被害を受けた時に被害届の提出を促していたが、本人は実は被害届を出したくないと思っていたことも明らかになった。

「少年院から戻ってきたというトー横キッズの子が、当時あきこから相談を受けていたと教えてくれました。良かれと思ってやったことがこんな結果に……」

 

 話を聞く中で、浩三さんはトー横に集まってきた子どもたちがグレーな仕事や売春に巻き込まれていく状況も目の当たりにした。

「トー横には普通の仕事に就くのが難しい子も多いですが、ホテル生活や外食を続けるには稼がないといけません。そこにつけこむ大人たちがいるのです。Aもそうやってグレーな仕事に手を出し『自分が辞めたら集めた子たちにも迷惑がかかる』と思い込んでしまって身動きが取れなくなっていたようでした」

 そんな生活の中で、あきこさんとAは心中という最悪の選択にたどり着いてしまった。浩三さんは2人の関係性についてこう話す。

「妻とも話したのですが、信頼というのとは違う気がしています。恋愛のレベルでもない。あきこはAに依存していたし、おそらく互いに依存しあっていたんだと思います。一人暮らしは孤独だと思ったので、私は『何かあったら戻っておいで』と言っていたんですが。私たちを頼ってくれればと何度も考えるのですが、それはできなかったんでしょうね……」