脳とコンピュータをつなぐ技術である、ブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)において、世界の注目を集めるスタートアップ企業・サイエンス社。そのCEOであるマックス・ホダック氏が、サイエンス社が独自に開発する「バイオハイブリッドBCI」について語った。(聞き手:須田桃子・科学ジャーナリスト)
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新しいBCIの目標
――「バイオハイブリッドBCI」のコンセプトと、従来のBCIとの違いを教えてください。
古典的なBCIの目標は、脳内のニューロンが表現している情報を読み取ることです。BCIにはさまざまなタイプがあります。脳波計のように装着型のものもあれば、脳の内部に電極を埋め込むタイプ、超音波を使うもの、血管内にステント電極を置くものなどもあります。それぞれの方式によって、脳の中からどんな情報を、どれくらい細かく、どれくらい速く、どの程度「意識的な操作」として取り出せるかが異なるのです。
現代の神経科学が対象としている中心的な単位は、「ニューロン1個の発火(スパイク)」です。ところが、非侵襲型の装置(頭の外から計測するタイプ)では、このスパイク信号を直接とらえることができません。そのため、脳の内部で起きている現象を“粗く平均化した近似データ”として扱うしかないのです。
もちろん、それでも役に立つ応用はいろいろありますが、なぜ世界中から莫大な資金や才能がこの分野に集まっているのかを考えるなら、単に“頭の中で念じるだけで(コンピュータ画面上の)カーソルを動かす”ことが目的ではないと思います。私たちが目指しているのは、脳とコンピュータの間で、はるかに高密度な情報のやり取りを実現することです。たとえば、脳の左右の半球同士が行っているような、非常に広帯域で緊密な通信に近づけるBCI技術をつくる。それが、私たちの目指している“統合のかたち”なのです。
