なぜ秋田でクマ被害が増えたのか

 2023(令和5)年には、秋田県のクマによる傷病者は70人と突出した人数となった。近年10人前後で推移していたのだが……。

「2023(令和5)年に傷病者数が激増した背景の一つには、里山の崩壊があると考えています。これまで、里山はきれいに芝刈りなどをして整備し、クマの住む山と人の住むエリアとの境界がはっきりしていました。そのため、クマも警戒して里山には下りてこなかった。それが、整備が行き届かなくなり境界が曖昧になったことで、クマが里山まで近づきやすくなったんですね。

秋田県におけるクマ外傷の傷病者数の推移 資料提供:秋田大学医学部附属病院(2023年)

 もちろん、2023(令和5)年の一年だけで、極端に里山が荒れていったのではありません。これまで進んできた里山崩壊が下地にあり、さらにこの年はクマの食べ物となるドングリが不作となったため、山が食料不足になったと考えられます」

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 人家もある里山には柿の木があり、実がなり放題。だけど誰もその実を収穫しない。そうなると、クマも「あそこに食べ物があるぞ」と覚えてしまう。秋田県としても、行政がそうしたことを考慮して、ここ数年で柿の木をだいぶ伐採した。

 ただ、柿の実は鳥の餌でもあった。あまり大量に伐採されてしまったら、今度は鳥の餌が無くなり、別の生態系に影響が出る。そうしたクマ問題とは別な問題でもあって、柿の木伐採は判断が難しい面もある。

 山林が多い秋田県は、他の都道府県と比べて、クマと人の住んでいるエリアが隣接しているともいえる。自然と都市を分けていた里山の崩壊で、これまでのような棲み分けが成立しなくなってきている状況でもある。

 さらに、クマを相手に狩りをするマタギの数も減っている。

 これら複数の要因が年々重なったことで、2023(令和5)年のクマによる傷病者数の突出した増加が生じたと思われる。

自宅の庭で襲われたケースも

 同センターでは、傷病者の治療の際に、クマに襲われた状況をできるだけ聞くようにしている。人がクマに襲われるシチュエーションは変わってきているのだろうか。

「2024(令和6)年の秋田県内の傷病者には、クマ狩りで山に入って受傷した猟師の方が1名いましたが、この方以外は、山に入っても自分からクマに遭おうと向かって行ったのではなく、偶然にも遭遇して襲われたという状況です。

 また、これまではクマと遭遇する場所で多いのは山の中。山菜採りなどで山に入って受傷される方が大多数を占めていましたが、近年は市街地の例が多くなっています。

受傷時の状況 資料提供:秋田大学医学部附属病院(2023年)

 たとえば犬の散歩中に襲われた方。この方は、飼い犬が『ワンワンワン』と吠え出したので、『何だろう?』と不審に思っていたら、突然、クマがガバッと襲ってきたといいます。自転車に乗っていて襲われた方もいらっしゃいます。クマが見えた瞬間にはもう目の前まで迫っていて、あとはもう『何が起こったか覚えていない』と話していました。

 特殊な例では、自宅の庭で遭遇し襲われた方もいます。このケースは遭遇場所としてはかなり珍しいでしょうね」