クマを暴走させてしまうNG行動
市街地か山中かにかかわらず、クマとの遭遇は突然だった例が多い。山菜採りの最中に襲われる人などは、夢中になって山菜を探していて、気づいたときにはすぐそばにクマがいた、という話はよくある。
「クマは視力はあまりよくないのですが、嗅覚は優れています。においを嗅ぎつけて近づいてくることもある。従って、見通しの悪い場所では、クマは人間の存在に気づいていても、人間はクマの存在に気づけていないということがあります。
傷病者から聞いた情報で、遭遇したときのクマとの距離に注目すると、遠くから長い距離を走って襲ってくる、というクマはあまりいないようです。やはり互いに気づかず出会い頭で、というパターンが多い。
ただし、子グマにちょっかいを出してしまうと話は別です。子グマを守ろうとする母グマが、走って襲いかかってきます。これは私の知人の例ですが、渓流釣りの最中に子グマを見かけて、子どもだと思って安心してかまってしまった。すると母グマが現れて襲われ、その弾みで、母グマと一緒に崖から落ちたのです。その知人は以来、肩が外れやすくなってしまいました」
「攻撃の中心は口」「圧倒的に狙われるのは…」
中永教授によると、クマによる受傷部位で圧倒的に多いのは、頭部や顔。クマが相手を威嚇するために立ち上がり前脚を振ると、ちょうど人間の頭部あたりの高さになるのがその理由だ。
「同じ野生動物でも、イノシシは突進してきますが、クマは少し異なります。遭遇したら最初、バーッと迫ってきますが、ビッと後ろ脚で立ち上がり、ガッと前脚を振り下ろしてきます。
ただし、前脚での一撃だけでなく、嚙まれて受傷することが多い。受傷したほとんどの人は、前脚と口の両方で攻撃されています。一方で、前脚の爪にやられた傷だけという人は、私の知る限りほぼいません。事実、患者さんは結構な確率で嚙まれています。攻撃の中心は口で、前脚での攻撃は最初の一撃のみということが多い」
ただし、最初の一撃のみだとしても、さすがにクマの力はすさまじい。しかも、頭部や顔面をやられてしまえば、かなりの重傷を負ってしまう確率は高い。
そして、クマの動きは想像以上に俊敏だ。襲われた人たちはみな、クマの素早さと襲われたことへの動揺で、詳しい記憶は残っていないこともよくあるという。
「もちろん例外はありますが、クマが人間を攻撃した後、いつまでもその場に残ることは稀です。襲われた後、『気づいたときにはもういなくなっていた』という証言もあります」
ところで、「クマは左利きなので、左脚から最初の一撃が飛んでくる」という俗説もある。もしそれが正しければ、あらかじめ予測し対処もできそうだが──。
「クマにも個体ごとに利き手はあるのでしょうが、左利きがとくに多いということはなさそうです。20年以上クマに襲われた症例を診ていますが、右からも左からもやられています。優位な差はほとんど確認できません」
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