50歳を迎え、「他の人とは違いすぎる」「あの頃に戻りたい」と人生を振り返るようになったのは、東京都出身・在住の富永嘉代子さん(50)。

 大学卒業後、現在は派遣事務とアルバイトで年収約330万円。79歳の母と同居している。彼女はなぜ今の人生を憂うのか? そこには、残酷な「非正規女性のリアル」があった――。社会問題化しつつある「ミッドライフクライシス」(中年の危機)に直面した50代を追った、増田明利氏によるルポルタージュ『今日、50歳になった―悩み多き13人の中年たち、人生について本音を語る』(彩図社)から一部を抜粋してお届け。なお、登場人物のプライバシー保護のため、氏名は仮名としている。(全3回の3回目/最初から読む

 写真はイメージ ©getty

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「派遣では考えられない破格の条件でしたよ」

「派遣会社から自宅待機してくださいと通知が来まして。なんとか食品ミニスーパーのアルバイトを見つけたけど、月収はかろうじて10万円ぐらいだったからピンチでした」

 ワクチン接種が始まると派遣会社から集団接種会場での案内、事務処理の仕事が入ってきたし、軽度感染者のホテル療養が本格化するとお世話係の仕事が入ってきた。

「自分が感染したら困ると思ったけど条件が破格だった」

 ホテルで療養している人は、PCR検査で陽性と判定されたが無症状か軽症で、入院するほどではないが家族等とは隔離しなくてはいけない人たちだけ。

「仕事はこの人たちの入退所対応、食事の提供、入所者からの問い合わせ対応、家族から連絡があった場合はメッセンジャー的なこともやりました。他にも書類作成、資料整理などの事務作業も担当しました」

 勤務は9時~21時、21時~翌9時までの二部制。日当は日勤が1万7800円、夜勤だと1万9600円。派遣だと交通費は時給に含まれることがほとんどだったが実費支給。

「派遣では考えられない破格の条件でしたよ」

 感染者数が高止まりすると休みは週1日の忙しさに。その代わり月収は40万円を超えることもあった。

「不謹慎ですが、わたしにはコロナバブルみたいなものでした」

 新規感染者数が低下してきた2022年10月末でホテル療養の規模が縮小され、派遣は終了となった。

「2年近く働いたわけですが入所者が重症化したり亡くなったりするようなことはなかった。わたし自身も感染しないで済みましたから良かったです」

 世間全体がコロナ慣れし、社会活動上の制限も緩和されたので次の派遣もブランクなしで紹介してもらえた。