金なし職なしの下層民には十分すぎるほど広い1人部屋でした。
その広い部屋の中央にベッドがあるのですが、外の景色が見える窓には背を向けた配置で、見ることができるのは、ドアの窓からの、看護師さんたちが行き来する姿だけでした。仰向けのまま、病室の備品を交換する係の人、病室の掃除をする係の人、病室の機械を出し入れする係の人など、色々な医療従事者を視界に捉えていました。
意識のない状態で運ばれて、病院の高さや色合いなどの外観も知らず、付近の町並みも交通量も知らずに、四方を壁に囲まれただだっ広い部屋で、1人で背中の痛みに気を取られていました。
ベッドから出ることは尿道の管を外すテストとトイレ以外に一度もなく、部屋の広さが活きることはまったくなかったです。腕も足も力一杯伸ばすことができず、体のコリに苛まれる時間が続きました。
少しでもいい姿勢を求めて、スイッチをいじって、ベッドの角度でよく遊びました。頭の部分の角度を上げたり下げたり、腰の所の角度を上げたり下げたり、足の方の角度を上げたり下げたり。されど、どれも似たり寄ったりで、ただひたすらうつ伏せが恋しくなりました。
丸1日ベッドの上での生活は、これまでのニートの生活で慣れてはいましたが、仰向けだけという条件1つで、怠惰で楽な生活が地味なストレスへ化すのだと学びになりました。
閉鎖病棟での「唯一の快感」
入院していた6日間、一度もお風呂に入れませんでした。おかげで、水虫の再発です。以前、精神科の病院に入院していた時に発症した水虫を、半年前にようやく完治させたばかりなのに、ここでまた足は痒みに襲われました。
2か月間、精神科の病院に入院していた時は、週に2回だけ入浴の時間がありましたが、お風呂場に石鹸はなく、お湯だけで体を洗っていました。どうやら私の肌は人より弱いらしく、入院生活3週間目頃から、少しずつ足が痒くなり、昼夜問わず掻きむしるようになりました。日に日に掻く頻度も強さも増し、掻いて掻いて掻き続けて、足は真っ赤に染まりました。
閉鎖病棟内では、痒みに従って掻きむしることが、唯一の快感でした。痒みを紛らわす娯楽は何もなく、冷やすも熱するも自由にできない病院内で、掻き続ける日々を繰り返していました。そんなある時、痒みに耐えかねて、就寝時の睡眠薬も飲み終えた後の夜中に、ナースステーションに助けを求め診てもらいました。
しかし、精神科あるあるなのですが、担当医の判断がないと新しい薬は処方できないということで、その時には何の処置もしてもらえず、睡眠薬を再びもらい強制的に眠りにつき、翌日の回診を待ちました。
