小学生のときに統合失調症を発症した漫画家・卯月妙子さん。
病状は50歳になった現在まで続き、精神障害2級と認定されている。常に何種類もの薬が手放せず、ときには自傷行為をしたり、寝たきりになるほどの重症に陥ったりすることもあるという。
そんな中でも卯月さんは自伝的漫画『人間仮免中』『鬱くしき人々のうた 実録・閉鎖病棟』などの話題作を発表してきた。
『人間仮免中』では恋人や家族たちとの平和で幸せな日々を描く一方で、「嫉妬で彼の首を切りつける」「歩道橋から顔面ダイブをする」など、激しい感情の波がもたらした衝撃的な場面も多々描かれている。
卯月さんはそんな統合失調症という病に加えて、最初に結婚した夫の自死も経験した。当時、ボロボロの状態だった卯月さんを救ったのは描き続けてきた漫画と、あるひとつの出会いだったという。
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決して穏やかではない恋人同士
2008年、36歳になった卯月さんは25歳年上の「ボビーさん」と知り合い、恋人同士になる。ともに行きつけだった飲み屋で2人は出会った。たちまち意気投合し、卯月さんのほうから交際を申し込んだという。
卯月さんの出世作である『人間仮免中』は、現在の夫でもあるそのボビーさんとの出会いや、幸せな日常と激しい感情のぶつかり合いを描いた作品だ。卯月さんが病の影響で、歩道橋から顔面ダイブによる自殺未遂をするシーンから話が始まり、そこから再び穏やかな日常を取り戻すまでが描かれている。
2人は恋人同士でありながら、その関係は決して穏やかではない。
例えば、口論は当たり前。浮気を疑われた卯月さんが、グラスを割り「そこいらの女と一緒にすんじゃねぇ!」と自らの首を掻っ切る。ほかの女といちゃつくボビーさんに腹を立て、包丁で切りつけることまである。ボビーさんもボビーさんで、「わたしは老い先知れているから」「若くて美しい男とキレイな恋をしなさい」とちょっと卑屈に卯月さんを諭すこともある。
一見すると重い内容だが、コミカルな絵柄でユーモラスな描写も多く、生きていることの尊さを感じられる作品になっている。