実は、企画が立ち上がったのはいまから20年近く前の2003年のことだ。当時の担当編集者は、現在出版社の社長になっている。「絶対にいつか描きあげるので、待っていて欲しい」という卯月さんのお願いを受け止め、執念で世に出したのだった。
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現在、卯月さんとボビーさんの2人は…?
2人は今、ボビーさんの故郷である北海道の港町で静かに暮らしている。卯月さんの統合失調症の症状は現在も軽くはなく、一日に元気に動けるのは数時間程度だ。
医療と福祉のサポートがなくては生活が送れず、以前のように飲み歩くことはおろか、コロナのため息子や親戚や友人に会うこともできない。刺激も変化も少ないが、それでも「今という時間が愛おしい。幸せ以外の何物でもない」と卯月さんは繰り返す。
「15年間ボビーと連れ添ってきて、今が一番お互いを理解しあい、何のてらいもなく、慈愛を持って接することができています。私たちにとっての青春が今です。性的にはとっくに枯れていますが、だからこそより深く愛せて、何かを超えて、もう一つになってしまったかのような、そのくらいにお互いがかけがえのない存在です。今このときを大切に、生きたいと思っています」
「生きてきて、今が一番幸せ」「来世でも結婚しようね」と語り合うこともしばしばだという。
『人間仮免中』シリーズはハッピーエンドで
「切った、張ったの大喧嘩も散々やりながら、とにかく体当たりで、ガチンコでぶつかり合ってここまで来ました。私たちは夫婦であり、戦友です。15年間、本気で本音でぶつかり合ってきたことが、お互いの信頼関係の一番大きな柱です」
ライフワークの漫画家としての活動も、新たなステージへ向かっている。現在、『人間仮免中シリーズ』の続編である、『港町ブルース』という作品を執筆中だ。編集部が卯月さんの体調を考慮し、ゆるく不定期に連載していくという。
これがシリーズの最終章になるかどうかは、まだわからない。けれど、卯月さんにはひとつだけ決めていることがある。
「『人間仮免中』シリーズは、ハッピーエンドで終わらせたいんです。そして連載終了まで主人に読んでもらいたいので、これからも元気でいてほしい。だから、2人とも健康に気を付けて、いつか本当に最終章を描くときが来たら、『人間仮免中おしまい』という作品にしたいですね」