10月17日朝、岩手県北上市の山中――。ハンターの1人がふと空を見上げると、トンビが2羽、川沿いの林の上のある1点をグルグルと旋回していた。

「その上にはヘリコプターが大きな音で飛んでいるのに、鳥が離れようとしない。下に何かいるのかと思いました」(ハンター)

ツキノワグマは本州、四国に生息

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現場付近には引きずられた跡が

 この日、同市和賀町岩崎新田の雑木林の中で、ここから()(とう)川を挟み約50メートル離れた「瀬美(せみ)温泉」の従業員Aさん(60)とみられる遺体が発見され、至近で体長140センチ、体重80キロの雄のツキノワグマの成獣が駆除された。Aさんはプロレス団体の元レフェリーだった。

 異変が起きたのは前日午前。警察関係者が語る。

「Aさんは朝9時ごろ、すぐ下を川が流れる露天風呂に掃除に行ったが戻ってこない。別の従業員が見に行くと姿は見当たらず、血痕があった。午前11時過ぎの110番通報でした」

 警察が駆け付けると、露天風呂の周りに黒っぽい数センチの肉片が3つ落ちていた。川側の柵の辺りには引きずられた跡もあった。

襲撃現場の温泉

〈クマに連れていかれたのではないか〉

 地元の猟友会のメンバーも招集され、翌朝8時から捜索を行うことに。冒頭はその一場面である。

 北上市猟友会の鶴山博会長が語る。

「メンバー19人が集まり、警察とともに2手に分かれ捜索しました」

クマはこの川岸づたいに移動しているという ©文藝春秋

 川を渡り、トンビが旋回する直下には猟友会のメンバー7人と警察が向かった。