「絶対に自殺はしないで」家族と別れて中国との国境へ

――脱北はどのように進めるんですか。

ムン 脱北を斡旋するブローカーがいて、その人にお金を支払って準備を進めるんですよね。中国と北朝鮮の国境にある川まで連れていってもらって、タイミングを見計らって中国へ渡ります。

 国境なので警備する兵士もいますが、ブローカーが賄賂を渡しているので見逃してくれるんですよ。

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 川を渡ったら中国にいるブローカーと連絡を取って、東南アジアを目指すことが多いです。東南アジアを目指す理由は、中国で見つかると北朝鮮に強制送還されるからですね。

――ブローカーの腕が重要になりますね。

ムン そうなんです。脱北した後に知りましたが、悪質な人もいるんですよ。女性の場合、中国の農村に売られたという話も聞きます。

――ムンさんが脱北した時はブローカーにどれくらいのお金を払ったのでしょうか。

ムン 日本円で50万円くらいの金額をお母さんが払いました。当時の北朝鮮では3万円あれば1年生活できたのでその10倍以上ですね。

 

――お母さんは一緒に亡命しなかったんですか。

ムン 2つ下の弟が軍隊に所属していたんです。お母さんに相談したら「息子を置いて行けないから先に行って。タイミングを見て私たちも行く」と言われて。おばあちゃんに対する監視もきつかったので、ひとりで脱北することになりました。

――家族とはどんなお別れを?

ムン 5月に入ったばかりの深夜に出発することになりました。その時に「ヨンヒちゃん、こんな国に産んでごめんね。もしヨンヒちゃんが捕まったら私たちは死ぬかもしれない。それでも自殺は考えないで。なんとかなるから」と言ってくれて。私もバイバイって涙を流しながら手を振って、ブローカーさんの車に乗りました。