朝令暮改の農政では再び米騒動が起きかねない
また、コメ政策については、石破政権では増産の方向性が示されたのが、あっという間に覆されて、来年は減産の方向性が示された。高市総理の所信表明にもあった「需要に応じた生産」が何よりも原則だとの主張はわかるが、米騒動の原因を顧みてほしい。
『令和の米騒動 食糧敗戦はなぜ起きたか?』(文春新書)で詳述したように、米騒動が起きた背景には、需給調整を減反でギリギリに行おうとして消費の変化と猛暑の影響に対応できなかったという事情がある。消費の変化はトレンドで単純に予測するのは困難なことも判明した。不確かな需要予測に合わせて生産を絞り込もうと「再生協議会」ルートで全国に指示すると、生産現場の疲弊と猛暑の影響で生産が減りすぎてしまう(再生協議会とはコメ需給の見通しをもとに示される「生産の目安」(適正生産量)を県、市町村、農協などを通じて農家まで周知する組織)。
迷走するコメ政策 わずか数か月で増産から減産の理不尽
この反省なしに、また生産を絞り込んだら元の木阿弥である。米騒動が再燃しかねない。いま必要なのは、農家が安心して増産できるセーフティーネット策を明確にしたうえで、需給にゆとりができるように生産を確保することではないだろうか。
生産者のコストに見合う価格を市場価格が下回ったら、その差額を直接支払いする政策を導入すれば、消費者は安く買えて、農家は所得が確保できる。「価格にコミット(関与)しない」政策というのは、まさに、こういう政策だ。しかし、この直接支払いには、少なく見積もっても5千億円以上の予算が必要になる。農業予算を絞り込もうとしている財政当局がウンと言うわけがない。
「価格に関与しない」の論理矛盾
増産で価格を引き下げて消費者を助けると生産者への直接支払いが必要になり、それは財政制約で不可能である。そこで、生産を抑制して価格はできるだけ下がらないようにして、消費者には「おこめ券」の配布という愚策が登場した。
そもそも、「価格に関与しない」と言いながら生産を抑制したら、それはまさに価格に関与していることになるということが理解されていないようである。下がらないコメ価格に対して何らかの手当てをする姿勢を消費者に示す必要がある。そこで「おこめ券」を配布するという付け焼刃の対策が出された。仕組みの作り方によるが、このほうが財政負担は少なく済むだろう。
しかし、これが需給と価格の安定につながる根本的解決策では到底ないことは明らかだ。「おこめ券」の配布によって消費者のコメ購入が増えれば、むしろ、「おこめ券」にはコメ価格自体を上昇させる効果があると思われる。
