米騒動の教訓から学べ 備蓄を減らす国に未来はない

 農業とはそもそも豊凶変動が大きい営みなので、生産で調整しようとしても限界がある。猛暑の影響も強まる中ではなおさらだ。見込んだ収量が確保できるとは限らない。変動要因はますます強まっている。これまで農家も農協もよく頑張ったが、これからは生産調整でなく出口で調整する仕組みの強化が不可欠だ。

 1つは備蓄用のコメや国内外の援助用のコメについて政府買上げ制度を構築することだ。買上げと放出のルールを明確にして需給の調整弁とする。さらに、輸入小麦のパンや麺をコメで代替し、飼料用の輸入トウモロコシもコメで代替し、コメ油で輸入の油脂類も代替するといったコメの需要創出に財政出動することだ。主食としてのコメ消費の他に、様々な出口が考えられるだろう。

 しかし、備蓄米について指摘しておきたいのは、政府が掲げる100万トン程度という数字は日本国内のコメ消費の1.5カ月分でしかなく、いざというときにどれだけの期間、子ども達の命を守れるかと考えたら少なすぎるということだ。命に直結する問題であるからこそ、備蓄米を増やすのは安全保障のコストとして負担されるべきと考えられる。ところが逆に、予算をかけたくないから政府備蓄米を減らす方向での検討に入っている。

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倉庫に保管される政府備蓄米 農林水産省 (MAFF), CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

「朝令暮改」とこのような逆行政策では米騒動は解決できない。しかも、コメの高価格が続くと、輸入米がさらに増加して市場を圧迫し、稲作農家の廃業を加速してしまいかねない。「あと5年以内にここでコメ作る人はいなくなる。この集落は人が住めなくなってくる」との懸念が全国各地で聞かれる現実を直視してほしい。

 ピントのずれた植物工場や「おこめ券」ではなく、安心してコメを増産できるセーフティーネットの整備、そして備蓄米を含む政府在庫の買い入れ・放出ルールを明確化した運用こそが求められるのではないだろうか。需給と価格を安定化させ、農家と消費者の双方を守る政策が待たれる。

 鈴木憲和農水大臣は、職員への訓示で、「財務の壁を乗り越えよう。全責任は私が負います」と発言した。ぜひ、有言実行に期待したいところである。

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