声優は目に見えない仕事

――例えばですが、「喜怒哀楽を演じなさい」みたいなレクチャーはあるんですか?

ニケライ 他の養成所ではあるのかもしれませんが、賢プロダクションの養成所ではなかったです。「心を開放する」ようなレッスンは、適切にケアができる先生の指導下でないと心が壊れる人たちが出てきてしまうケースがあるので、非常に繊細な授業内容でなければならないと思います。「目に見えないこと」を指導するのって、本当に難しいですよね。

――なるほど。

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ニケライ 1つのセリフがあったとして、素直にそのセリフの文言のままなのか考えます。「ありがとう」のセリフ一つでも、嫌味で言っている場合もあるし、嫌味の中にもちょっとした謝意がある場合もあるかもしれない。サブテキストとして、裏の言葉、つまり本音があったりすることが多いです。

 台本をいただいてからの作業は、本を作った原作者さん、脚本家さんなどの目的を可能な限り紐解きます。話の流れ・構成・シーンの役割・役の目的を理解して細分化して取り組んでいくのが役者の仕事だと思います。

©︎榎本麻美/文藝春秋

 これって本当に難しくて、声優の仕事って目に見えない仕事。人それぞれ生きてきた環境や思考回路が違うから、「こうすればこうなる」と普遍的に教えることはできないと思います。基礎的な演技メソッド・システムは学べますけど。なので現場に出て、先輩の背中を見るのが何よりも一番勉強になります。そして自分の身体を使って、求められているものができるかは自分次第。そこが本当に難しい仕事だと思います。正解がありそうでないのが表現の世界なんです。

 だから、自分の声を何度も聞くということも大事なんですよね。私自身、大切にしていることなのですが、役も作品も役者のものではなくて、演出家さんなどのクライアントさんのものだと思ってます。なので、ディレクションを受けた際は、それに適応する柔軟性が声優には一番大事だと、つくづく思います。アジャストしなければいけない。

「声もバイブスも似過ぎだ!」と思ったケイティ役

――表現者だけど、独りよがりでは通用しないと。ニケライさんがプロの声優になって初めて担当された作品は何だったのですか?

ニケライ 私が賢プロダクションに所属して初めて出演させていただいたのが、海外アニメ『ボージャック・ホースマン』でした。養成所時代に、講師で来ていただいていた、日本語版吹き替え作品のディレクターである鍛治谷功さんに呼んでいただきました。頭が上がらないディレクターさんはたくさんいらっしゃるんですけど、吹き替え作品演出の巨匠である鍛治谷さんには今も大変お世話になっていますね。

©︎榎本麻美/文藝春秋

――日本語版吹き替えって、やっぱり向き不向きってあるものですか?

ニケライ そういうのはないと思います。吹き替えは、元の役者さんが演じている芝居・呼吸をトレースして日本語にするのがベースの仕事だと思っています。なので演じるというよりも、声帯を担当してるだけ、というイメージなんです。そのベースがあった上で日本語版としてどう面白くするか、を常に考えてます。

 それこそ『シャン・チー』のケイティ役は、声があまりにも似ているからという理由でボイステストを受けさせていただいたんですよね。我ながら「声もバイブスも似過ぎだ!」と思いましたね。あとは、顔や雰囲気が似ているということでキャスティングされることもありますね。