イラストレーターで絵本作家のヨシタケシンスケさんは、絵本『りんごかもしれない』、『りゆうがあります』など数々のヒット作を生み出しています。その原画の実寸はとても小さく、絵本用に大きく拡大しているワケは、とある事情で人に見つかる前にサッと左手で隠せるサイズでイラストを描き始めたことにあるとか。大学院を卒業後、会社員時代を経て、イラストレーターから絵本作家になるまでの“前夜”について聞きました。
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1冊目のイラスト集は売れなかった
――ヨシタケさんは、イラストレーターの方という印象が強かったように思います。
ヨシタケ 初めて絵本を出版したのが40歳の時なんですけど、それから10年前、30歳の時に初めてイラスト集を出させていただいて。これが、まあ売れなかったんです(笑)。
――売れなかった体験は、強く残っていますか。
ヨシタケ そうなんですよね。やっぱり本づくりって、もちろん作者はいるんですけど、その作者だけで世の中に流通するはずもなくて。色々な方がリスクを覚悟しながらやっているわけですよ。それが売れないと、単純に声をかけてくださった人たちに申し訳ないなというのが経験としてあって……。いい本だから売れるとか、そんな簡単なものじゃないですけど。30歳から40歳にかけて出した本が、全然売れなかった。このことに対する思いは、未だに残っていますね。今はウェブ上で好きなことだけを、コストをかけずに発信することもできます。でも本を作るというのは、もっと色々な人を巻き込むことなんだと思うんです。
――2013年に刊行された絵本デビュー作『りんごかもしれない』(ブロンズ新社)は、65刷に。すごいことですね。
ヨシタケ 初めて描かせていただいた絵本で、結果が出た時は本当にうれしかったし、声をかけてくださった方に対して、“恩返し”ができたと思ってホッとしました。僕は、元々イラストレーターなので、絵本作家の中ではかなり異質な存在なんですよ。絵が小さかったり、自分で色つけてなかったり(笑)。 普通は原画を縮小するものなんですよ、絵本って。
――お手元の、手帳を見せていただいてもいいですか。
ヨシタケ この手帳は、365日いつも持ち歩いて、思いついたアイディアをスケッチしています。だいたいこれが、実物大ですね。
――想像以上に小さいです!
ヨシタケ 普通は、大きく描いた原画を小さくして絵本にするんですけど、僕の場合は拡大して絵本にするんです。たぶん絵本業界で拡大してるの、僕ぐらいですよ(笑)。200パーセント拡大することも。 0.3ミリのサインペンで描いています。
――色はどういう風につけているんですか?
ヨシタケ 絵本に関しては、色はデザイナーの方につけてもらっています。僕のほうで、パソコンに取り込んで、はみでた線なんかをちょっと修正して。線画の状態のデータをデザイナーさんに送ります。そういうわけで、絵本作家としては、そもそもありえないところが結構たくさんある(笑)。色々抜け道を探して、絵本という形にしているんです。
「絵本の王道」のことができないのであれば、別な何かで勝負しなきゃいけない。 僕の場合は、絵の色の奥行だったり、抒情的な絵というところで勝負できない。だったら、 「新しいものの見方」の提案とかシンプルなマンガっぽい絵で、言いにくいことを言ってみるとか。 付加価値をつけていかなきゃいけないと思っています。